背景:何がきっかけで生まれた事業か
重層的支援体制整備事業のルーツをたどると、「地域共生社会」という理念にたどり着きます。
2017年(平成29年)の社会福祉法改正で、地域福祉推進の理念として、住民が抱える複合的な生活課題を、住民・福祉関係者・関係機関の連携によって解決していくという考え方が法律に明記されました。同時に、市町村による「包括的な支援体制」の整備が努力義務として規定されています。これが、地域共生社会の理念が制度に組み込まれた最初のタイミングです。
そして、この理念を具体化する手段として、2020年(令和2年)の社会福祉法改正で創設されたのが、重層的支援体制整備事業(社会福祉法第106条の4、令和3年4月施行)です。
国試では、「令和2年に創設された」という年号そのものよりも、「2017年に示された地域共生社会の理念が、2020年の改正で重層的支援体制整備事業という具体的な事業になった」という、理念→制度化という流れが問われる形式が多い傾向にあります。年号や条文番号の丸暗記ではなく、「何を目指して、どんな経緯でできた制度なのか」をセットで押さえておきましょう。
ポイント1: 実は「任意事業」
まず大前提として押さえてください。重層的支援体制整備事業は、市町村の義務ではなく、実施を希望する市町村の手あげによる任意事業です。
「地域住民の複雑化する課題に対応するための事業」と聞くと、つい「全市町村必須の制度」と思い込んでしまいがちですが、そこがまず1つ目のひっかけポイントです。
ポイント2: やるなら5事業を一体で
任意事業とはいえ、実施すると決めた市町村は、次の5つの事業を一体的に行わなければなりません。
- 包括的相談支援事業
- 参加支援事業
- 地域づくり事業
- アウトリーチ等を通じた継続的支援事業
- 多機関協働事業
「やるなら中途半端はダメ、5つセットで」という設計です。「相談支援だけ」「地域づくりだけ」という部分的な実施は認められません。
ポイント3: 実施計画の策定は「努力義務」
重層的支援体制整備事業を実施する市町村は、事業の実施に関する計画(重層事業実施計画)を定めるよう努めるものとされています(社会福祉法第106条の5)。
ここは要注意です。「事業自体は任意」「でも実施するなら5事業一体」「計画策定は努力義務」と、義務の強さのレベルが場面ごとに違います。この整理があいまいだと、国試の選択肢で必ず混同させられます。
ポイント4: 支援会議は「本人同意」がいらないそして「任意」
重層的支援体制整備事業を実施する市町村は、関係機関などで構成する「支援会議」を組織することができます(第106条の6)。またここで「任意」登場です。
この支援会議の大きな特徴は、構成員に守秘義務を課すことで、本人の同意がなくても情報交換ができるという点です。通常、支援に関する個人情報の共有には本人同意が必要と考えがちですが、この支援会議は例外的な位置づけになっています。制度の狭間で「同意が取れないまま孤立している人」にアプローチするための、実務上とても重要な仕組みです。
予想○×問題
問1 重層的支援体制整備事業は、すべての市町村に実施が義務付けられている。
問2 重層的支援体制整備事業を実施する市町村は、包括的相談支援事業のみを行うことも認められる。
問3 重層的支援体制整備事業の実施計画の策定は、努力義務とされている。
問4 支援会議において関係機関が情報交換を行うには、原則として本人の同意が必要である。
問5 重層的支援体制整備事業は、2017年に示された地域共生社会の理念を具体化する事業として、2020年の社会福祉法改正により創設された。
解答
問1: × 実施を希望する市町村の手あげによる任意事業。
問2: × 実施する場合は5つの事業を一体的に行わなければならない。
問3: ○ 重層事業実施計画の策定は努力義務(第106条の5)。
問4: × 支援会議は構成員に守秘義務を課すことで、本人同意がなくても情報交換できる仕組み。
問5: ○ 2017年の社会福祉法改正で示された地域共生社会の理念を土台に、2020年の改正で重層的支援体制整備事業が創設された。

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