語呂合わせで、年表を覚えようとしていませんか? 法律は「いつできたか」ではなく「どのような背景で、どのような内容だったか」を覚えていないと解けません。 時代背景と一緒に、流れで覚えていきましょう。
今回のテーマは「国家が動き出すまで」
前回②では、COSとセツルメント運動という「民間の力」を扱いました。

ただ、民間の善意には限界があります。今回は、貧困の見方そのものがひっくり返り、ついに国家が重い腰を上げるまで・・・イギリスが「福祉国家」への道を歩き出す、大きな転換点を扱います。
①貧困の「発見」とナショナル・ミニマム論(1886年〜1909年)
きっかけは、ブースのロンドン調査と、ラウントリーのヨーク調査です。「貧困の原因は怠惰である」・・・エリザベス救貧法から約300年続いたこの見方が、データによって否定されます。貧困の主な原因は、低賃金や不安定な雇用、つまり社会の側にあることが実証されたのです。
さらにウェッブ夫妻が「国家はすべての国民に最低限の生活(ナショナル・ミニマム)を保障すべきだ」という理論を打ち出し、1909年の王立救貧法委員会・少数派報告では、救貧法そのものの解体を主張するに至ります。
調査が常識を壊し、理論が進むべき方向を示した・・・歴史が動こうとしている瞬間です。それぞれ人名シリーズでしっかり解説していますので、ぜひあわせて読んでください。


②自由党の社会改革:老齢年金法と国民保険法(1908年・1911年)
次に動いたのが当時の自由党政権です。
まず1908年、老齢年金法が制定されます。70歳以上の低所得高齢者に、国の一般財源から年金を支給する仕組みです。注目してほしいのは、これが無拠出制(保険料を払っていなくてももらえる)だったこと。「働けなくなった高齢者の貧困は、本人の責任ではない」という、貧困観の転換がはっきり形になった瞬間です。
続いて1911年、国民保険法が制定されます。この法律は2本立てでした。
第1部が健康保険。ドイツのビスマルクが作った世界初の社会保険制度を参考にしたものです。
そして第2部が失業保険。こちらは参考にする先例がどこにもない、世界初の制度でした。
「失業は個人の怠惰ではなく、社会が備えるべきリスクである」・・・新救貧法の時代からは考えられない発想です。労働者・使用者・国の三者が保険料を出し合う拠出制で、これが現在の社会保険方式の原型となっていきます。
③ベヴァリッジ報告(1942年)
そして時代は飛んで、第二次世界大戦の真っ最中。ドイツ軍の空襲が続くロンドンで、戦後の社会保障の設計図が描かれていました。それが1942年のベヴァリッジ報告(正式名称『社会保険および関連サービス』)です。
ベヴァリッジは、戦後の再建をはばむ敵を「5つの巨人悪」と名付けました。窮乏(欠乏)・疾病・無知・不潔・無為(怠惰)の5つです。
このうち中心となる「窮乏」への対応策が社会保険です。
ここは国試のひっかけの定番なので強調しておきます。ベヴァリッジ報告の中心手段は、公的扶助ではなく社会保険。
均一拠出・均一給付の保険でナショナル・ミニマムを保障し、公的扶助(国民扶助)はあくまで補完、という設計でした。ウェッブ夫妻の理論が、約30年の時を経てここで結実したわけです。
この報告書は戦後、労働党政権のもとで次々と制度化され、「ゆりかごから墓場まで」と呼ばれる福祉国家イギリスが誕生します。1948年には、あのエリザベス救貧法から約350年続いた救貧法が、ついに廃止されました。
ポイントは、5つの巨人悪の中心は「窮乏」で、その対応の中心手段は社会保険だった、ということですね。
空襲下のロンドンで「本当の敵」は何だったか
ベヴァリッジ報告が発表された1942年、ロンドンはドイツ軍の空襲の真っ只中でした。目の前には戦争という現実の敵がいる。その最中に、「戦争が終わったあと、この国が本当に戦うべき敵は何か」を問い、窮乏・疾病・無知・不潔・無為という5つの巨人悪を名指ししました。本当の敵は、外にいる誰かではなく、自分たちの社会の中にいる。この視点の転換こそが、ベヴァリッジ報告の一番すごいところだと思います。
「5つの社会的課題」ではなく「巨人」。難しい報告書なのに国民がこぞって買い求め、ベストセラーになったのは、この言葉の力も大きかったはずです。
ただし国家試験は、そのネーミングの感動には付き合ってくれません。
狙ってくるのは「ベヴァリッジ報告の中心手段は公的扶助である」→×(正しくは社会保険)
のような問題です笑
このあたりの歴史は壮大で物語的にも大変興味深いですが
ドラマに浸ったあとは、五肢択一の確認もお忘れなく・・・
この記事は「頻出!流れで覚える年表シリーズ」の一つです。
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次回④では、ベヴァリッジ報告が実際の制度になっていく戦後のイギリス・・・シーボーム報告までを扱います。

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