全数調査と標本調査
調べたい対象の全体を母集団といいます。何を明らかにしたいかによって、母集団は変わります。ある特別養護老人ホームに入所している人の家族がどう感じているかを知りたいのであれば、その家族全員が母集団です。大阪府内の高校生の生活実態を知りたいのであれば、府内の高校生全員が母集団になります。
この母集団に含まれるすべてを調べる方法が全数調査です。国勢調査が代表ですが、規模の大きいものに限りません。特別養護老人ホームの家族全員に質問紙を配れば、それも全数調査です。母集団をもれなく調べていますので正確な結果が得られますが、母集団が大きくなるほど人手も費用も時間もかかり、実施が難しくなります。
そこで、母集団から一部を取り出して調べ、その結果から母集団全体の性質を推測する方法がとられます。これが標本調査で、取り出した一部を標本、取り出す作業を標本抽出といいます。大阪府内の高校生全員を調べるかわりに、そこから3000人を選んで調べ、その結果から府内の高校生全体の傾向を読み取る、という形です。
ただし、一部しか調べていませんので、標本の選び方によっては母集団とかけ離れた結果になります。取り出す数が少なければ、たまたま偏った人たちばかりが選ばれる可能性も高くなります。どのように取り出すかが標本調査の要になるということです。
標本の抽出方法
標本の選び方は、大きく2つに分かれます。意図が入る余地のない、偶然性の高い標本を選ぶ方法と、調査者の意図があって選ぶ方法です。
無作為抽出(確率抽出)
母集団に含まれるすべての人が同じ確率で選ばれる方法です。選ばれる確率が分かっていますので確率抽出と呼ばれ、誰が選ばれるかを偶然に任せることから無作為抽出ともいいます。調査者の意図が入りませんので、選んだ標本は母集団の縮図に近いものになり、その結果から母集団全体の傾向を読み取れる可能性が高いと考えられています。
単純無作為抽出法
母集団の全員に通し番号を振り、乱数表やコンピュータを使って番号を選び出す方法です。最も基本的な方法ですが、母集団が大きくなるほど番号を振る作業に手間がかかります。
系統抽出法
通し番号を振ったあと、最初の1人だけを無作為に選び、そこから一定の間隔で選んでいく方法です。1万人から100人を選ぶのであれば、最初の1人を無作為に決めて、そこから100人おきに選びます。作業は簡単になりますが、名簿の並び順に規則性がある場合、選んだ標本に偏りが生じます。世帯名簿が世帯主、配偶者、子の順に繰り返し並んでいるようなときです。
層化抽出法
母集団の構成が分かっている場合に使う方法です。男性が6割で女性が4割、20歳代が3割で30歳代が2割というように、性別や年代の比率が分かっているとします。この比率にそって、母集団を性別や年代のグループに分け、それぞれのグループから、比率に応じた人数を無作為に選びます。1000人を選ぶのであれば、男性から600人、女性から400人という形です。全体からまとめて選ぶ場合に比べて、標本の構成が母集団に近くなります。
多段抽出法
母集団が広い地域に散らばっている場合に、段階を分けて選ぶ方法です。まず市町村を無作為に選び、選ばれた市町村のなかから地区を選び、その地区から世帯を選ぶという形です。調査に回る範囲が絞られますので費用を抑えられますが、段階を重ねるほど、母集団の特性を推定する精度は落ちます。
有意抽出(非確率抽出)
協力を得られそうな人に声をかける、特定の経験をもつ人を探して依頼するというように、調べる人を調査者が選ぶ方法です。誰が選ばれるかは調査者の判断によりますので、母集団のなかの誰が選ばれるのか、その確率には偏りが生じます。全員が同じ確率で選ばれるわけではありませんので、非確率抽出と呼ばれ、意図をもって選ぶことから有意抽出ともいいます。
機縁法
調査者自身の知人や、知人からの紹介によって対象者を集める方法です。調査者の交友関係の範囲で集めることになりますので、偏りが生じます。
スノーボール・サンプリング
調査に協力してくれた人から次の対象者を紹介してもらい、その人からまた次の人を紹介してもらうという形で、対象を次々に増やしていく方法です。雪だるまが転がって大きくなるさまに例えた呼び名です。名簿がなく、対象者を見つけにくい調査で使われます。
過去問を解いてみましょう
第29回 問題86
量的調査における標本抽出に関する次の記述のうち、正しいものを1つ選びなさい。
1 単純無作為抽出法は、母集団の規模にかかわらず作業時間が節約できる効率的な抽出法である。
2 系統抽出法では、抽出台帳に何らかの規則性がある場合、標本に偏りが生じる危険がある。
3 標本抽出では、男女別や年齢別の割合など、あらかじめ分かっている母集団の特性を利用してはならない。
4 用いる尺度の問題から測定上の誤差が生じることを標本誤差という。
5 機縁法は確率標本抽出の一種である。
解説
正答は2です。
1 × 単純無作為抽出法は母集団の全員に通し番号を振りますので、母集団が大きくなるほど作業に手間がかかります。
2 ○ 名簿の並び順に規則性があると、一定の間隔で選ぶことによって標本に偏りが生じます。
3 × 男女別や年齢別の割合など、分かっている母集団の特性を利用する方法が層化抽出法です。
4 × 用いる尺度の問題から生じる測定上の誤差は、非標本誤差です。標本誤差は、母集団の一部しか調べていないために生じるずれをいいます。
5 × 機縁法は有意抽出(非確率抽出)の一つです。
第32回 問題86
調査対象者の抽出に関する次の記述のうち、正しいものを1つ選びなさい。
1 標本抽出方法の確率抽出と非確率抽出では、非確率抽出の方が母集団に対する代表性が高い方法である。
2 適切に抽出された標本調査であれば、標本誤差は生じない。
3 調査対象者の多段抽出は、単純無作為抽出に比べて母集団の特性を推定する精度が高い。
4 系統抽出法は、抽出台帳に一定の規則性がある場合には、抽出した標本に偏りを生じることはない。
5 スノーボール・サンプリングは、非確率抽出法の一つである。
解説
正答は5です。
1 × 母集団に対する代表性が高いのは確率抽出です。
2 × 適切に抽出された標本調査でも、母集団の一部しか調べていませんので標本誤差は生じます。
3 × 多段抽出は段階を重ねるほど精度が落ちますので、単純無作為抽出より精度が高いとはいえません。
4 × 抽出台帳に一定の規則性がある場合、系統抽出法では標本に偏りが生じます。
5 ○ スノーボール・サンプリングは有意抽出(非確率抽出)の一つです。
第33回 問題86
標本調査に関する次の記述のうち、最も適切なものを1つ選びなさい。
1 非標本誤差は、回答者の誤答や記入漏れ、調査者の入力や集計のミスなどで生じる。
2 無作為抽出法による標本調査には、道で偶然に出会った見知らぬ人々を調査対象者として選ぶ方法も含む。
3 系統的抽出法は、母集団を性別や年齢別などの比率で分けて標本を得る無作為抽出の方法である。
4 有意抽出法は、確率抽出法の一方法である。
5 無作為抽出法による標本調査では、サンプルサイズの大小は、母集団を推計する信頼度に関係しない。
解説
正答は1です。
1 ○ 非標本誤差の説明として正しい記述です。標本を選んだこと以外の原因で生じるずれをいいます。
2 × 道で偶然に出会った人を選ぶ方法では、母集団の全員が同じ確率で選ばれません。無作為抽出には含まれません。
3 × 母集団を性別や年齢別などの比率で分けて標本を得る方法は、層化抽出法です。
4 × 有意抽出法は非確率抽出法です。
5 × 取り出す数が多いほど、母集団を推計する精度は上がります。
第36回 問題86
次の事例を読んで、S県が実施した標本調査の母集団として、最も適切なものを1つ選びなさい。
〔事例〕
S県内の高校に在籍している全ての生徒のうち、日常的に家族の世話や介護等を担っている高校生が、どのくらい存在するかを調べるために、標本調査を実施した。
1 全国の高校に在籍する全生徒
2 全国の高校に在籍する全生徒のうち、日常的に家族の世話や介護等を担っている者
3 S県内の高校に在籍する全生徒
4 S県内の高校に在籍する全生徒のうち、日常的に家族の世話や介護等を担っている者
5 S県内の高校に在籍する全生徒のうち、標本となった者
解説
正答は3です。
1 × 調べたいのはS県内の高校に在籍している生徒ですので、全国の生徒は母集団に含まれません。
2 × 全国としている点と、世話や介護等を担っている者に絞っている点が誤りです。
3 ○ S県内の高校に在籍している全ての生徒が母集団です。
4 × 世話や介護等を担っている生徒がどのくらい存在するかを調べる調査ですので、その生徒だけを母集団にすると、全体に占める割合が分かりません。
5 × 標本となった者は、母集団から取り出された一部です。
標本誤差と非標本誤差についての記事はこちら
→ 標本誤差と非標本誤差の違い|標準誤差とは何か
社会福祉調査の基礎の記事マップはこちら
→ 社会福祉調査の基礎 記事マップ
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