こども性暴力防止法ができた背景
学校や保育所、学習塾、スポーツクラブなど、子どもと日常的に接する場で、教員や保育士、指導者が子どもに性暴力を加える事件が繰り返し起きてきました。子どもは被害にあっても、それが性暴力だと気づきにくく、気づいても周りの大人に打ち明けにくい立場にあります。そのため被害が表に出にくく、加害者が職場を変えて同じことを繰り返す例もありました。
国はこれまで、職種ごとに対策を設けてきました。
〇2021年の教員性暴力等防止法(教育職員等による児童生徒性暴力等の防止等に関する法律)は、児童生徒性暴力等で教員免許が失効した者の情報をデータベースに記録し、教員を採用する者が確認できるようにしました。
〇2022年の児童福祉法改正は、保育士にも同じような仕組みを設けました。
ただ、これらは免許や資格のある職種に限った仕組みです。学習塾の講師やスポーツクラブの指導者のように資格が必須ではない仕事では、事業者が応募者の性犯罪歴を確かめる手段がありませんでした。
そこで国は、イギリスのDBS(Disclosure and Barring Service:前歴開示・前歴者就業制限機構)を参考に、子どもと接する仕事に就く者の性犯罪歴を確認する仕組みをつくりました。それがこども性暴力防止法(学校設置者等及び民間教育保育等事業者による児童対象性暴力等の防止等のための措置に関する法律)で、日本版DBSとも呼ばれます。2024年6月に成立し、2026年12月25日に施行されます。
義務を負う事業者と認定を受けられる事業者
こども性暴力防止法は、学校や保育所などの事業者に、採用する者の性犯罪の前科を確認することと、子どもへの性暴力を防ぐ体制を整えることを義務付けています。
義務を負うのは学校設置者等で、学習塾やスポーツクラブなどの民間教育保育等事業者は、国の認定を受けた場合に、学校設置者等と同じ義務を負います。
学校設置者等の義務
学校設置者等(認定を受けた民間教育保育等事業者を含みます)は、次の四つの措置を講じます。
犯罪事実確認の仕組み
事業者がこども家庭庁に申請し、こども家庭庁が法務省に照会して、従事者の前科を確認します。
確認の対象になる特定性犯罪には、不同意性交等や不同意わいせつ、盗撮、痴漢などが含まれ、大人に対する性犯罪も対象です。確認の対象になる期間は、刑の重さによって次のように決められています。
演習問題を解いてみましょう
こども性暴力防止法は、まだ国家試験で出題されていません。内容を確認するための演習問題を作成しました。
演習問題1
こども性暴力防止法に関する次の記述のうち、正しいものを1つ選びなさい。
1 この法律におけるこどもの定義は、こども基本法の定義が準用されている。
2 学習塾を運営する事業者は、すべて犯罪事実確認を行わなければならない。
3 保育所の設置者は、従事者の特定性犯罪の前科の有無を確認しなければならない。
4 犯罪事実確認の対象となる特定性犯罪は、児童に対して行われたものに限られる。
5 特定性犯罪の前科がある者について、その内容は本人に知らされないまま事業者に通知される。
解説
1→× この法律は「こども」ではなく「児童等」という言葉を使っています。児童等は、教員性暴力等防止法の「児童生徒等」(学校に在籍する幼児・児童・生徒と、18歳未満の者)に、高等専門学校の1〜3年生と専修学校(高等課程)の生徒を加えた範囲です。こども基本法の「心身の発達の過程にある者」という定義を準用してはいません。
2→× 学習塾は民間教育保育等事業者です。確認の義務を負うのは、国の認定を受けた事業者だけです。
3→○ 保育所の設置者は学校設置者等なので、認定の有無に関係なく確認の義務を負います。
4→× 特定性犯罪には、大人に対する性犯罪も含まれます。
5→× 前科があるときは、こども家庭庁が事業者に知らせる前に本人へ通知し、本人は訂正を請求できます。
演習問題2
こども性暴力防止法に規定される学校設置者等が講じる措置に関する次の記述のうち、適切なものを2つ選びなさい。
1 児童が相談しやすい体制を整備する。
2 従事者の特定性犯罪の前科の有無を、市町村長に照会して確認する。
3 児童対象性暴力等を行うおそれがあると認められる従事者を、児童と接する業務に従事させないなどの措置をとる。
4 犯罪事実確認によって得た情報を、保護者に公表する。
5 すでに雇用している従事者については、犯罪事実確認を行う必要はない。
解説
1→○ 安全確保措置の一つです。
2→× 事業者はこども家庭庁に申請し、こども家庭庁が法務省に照会します。
3→○ 防止措置です。おそれがあるときは、子どもと接する業務から外します。
4→× 犯罪事実確認で得た情報は、目的外の利用や第三者への提供が禁止されています。
5→× すでに働いている従事者も、施行から3年以内に確認します。
演習問題3
こども性暴力防止法の犯罪事実確認に関する次の記述のうち、正しいものを1つ選びなさい。
1 拘禁刑に処せられた者については、刑の執行が終わってから10年を経過していない前科が確認の対象となる。
2 罰金に処せられた者については、刑の執行が終わってから10年を経過していない前科が確認の対象となる。
3 拘禁刑の執行猶予の言渡しを受けた者については、裁判が確定してから20年を経過していない前科が確認の対象となる。
4 犯罪事実確認書は、都道府県知事が事業者に交付する。
5 民間教育保育等事業者は、国の認定を受けなくても犯罪事実確認を申請することができる。
解説
1→× 拘禁刑は、刑の執行が終わってから20年です。
2→○ 罰金は、刑の執行が終わってから10年です。
3→× 拘禁刑の執行猶予は、裁判が確定してから10年です。20年なのは、執行猶予の付かない拘禁刑のほうです。
4→× 犯罪事実確認書は、こども家庭庁(内閣総理大臣)が交付します。
5→× 犯罪事実確認を使えるのは、学校設置者等と認定を受けた民間教育保育等事業者だけです。認定を受けていない事業者は、この仕組みを使えません。


コメント