2025年問題といえば、団塊の世代が一気に75歳を超え、医療と介護のニーズを満たせるのか、という問題でした。
それと同時に、合計特殊出生率は下がり続け、出生数は過去最低の更新が続いています。
前者については、地域包括ケアシステムを前面に出して、いまも取り組みが続いています。2025年を過ぎた今は、団塊ジュニア世代の高齢化を視野にいれた2040年を見据えた段階に入りました。
では、後者についてはどうしているのでしょうか。
子育て支援や少子化対策は、ソーシャルワーカーにとっても必要な視点ですが、この分野は法改正がとにかく激しいですね。追いかけ続けるのは私も大変です。保育は無償化された、高校も無償化された、大学もどうやららしい、と聞いてはいても、誰がどこまで対象なのか、クリアに言えるでしょうか。
そこで今回は、教育費の無償化について整理してみました。
最後まで読んでいただくと、教育の無償化が、国際人権規約という国家試験の別のテーマにつながっていることがわかります。そこを視野に入れながら、読み進めてみてください。
無償化の全体像
全体像を確認します。
| 段階 | 対象 | 所得制限 | いつから |
|---|---|---|---|
| 保育(3〜5歳) | 全員 | なし | 2019年10月 |
| 保育(0〜2歳) | 住民税非課税世帯 | あり | 2019年10月 |
| 公立高校 | 全員 | なし | 2025年度 |
| 私立高校 | 全員 | なし | 2026年度 |
| 大学等(多子世帯) | 子ども3人以上を扶養 | なし | 2025年度 |
| 大学等(多子世帯以外) | 非課税世帯・中間層など | あり | 2020年度〜 |
保育|2019年10月から
正式には幼児教育・保育の無償化といいます。
3歳から5歳は、幼稚園・保育所・認定こども園などの利用料が、所得に関係なく無償になりました。
0歳から2歳は、住民税非課税世帯に限られます。ここは今も所得制限が残っています。
財源は、消費税を10%に引き上げた分があてられています。社会保障の財源としての消費税、という論点にもつながるところです。
高校|2025年度・2026年度に大きく動きました
ここが、いちばん変化の大きかったところです。
もともとは高等学校等就学支援金という制度で、年収に応じて支給されていました。年収590万円未満なら私立を想定した加算があり、910万円未満なら公立の授業料相当額。910万円以上の世帯は、対象外でした。
そこが、2年続けて変わります。
2025年度から、公立高校の所得制限が撤廃されました。年収に関係なく、公立の授業料相当額が支給されます。
2026年度からは、私立高校も所得制限が撤廃されます。上限額も引き上げられ、私立の平均授業料の水準まで支給されます。
つまり、公立・私立を問わず、すべての世帯で高校の授業料が実質無償になった、ということです。
ただし、これは授業料に対する支援です。入学金、教材費、制服代、通学費などは含まれません。
大学等|2020年度から、少しずつ広がってきました
高等教育の修学支援新制度といいます(高等学校ではありません。高等教育です)。
大学・短期大学・高等専門学校・専門学校が対象です。
中身は2つあります。授業料・入学金の減免と、返さなくてよい給付型奨学金。この2つがセットになっています。
2020年度(開始時) 住民税非課税世帯と、それに準ずる世帯だけ。
2024年度 年収600万円程度までの多子世帯と、私立の理工農系に拡大。
2025年度 多子世帯は、所得制限なしで授業料・入学金の減免を受けられるようになりました。
*多子世帯とは、扶養している子どもが3人以上の世帯のことです。
ただし所得制限がなくなったのは授業料等の減免のほうで、
給付型奨学金には引き続き所得による区分があります。
「授業料の減免制度の適用に所得制限がなくなった」だけで
「大学が完全に無償になった」わけではありませんのでご注意ください。
減免には上限額があります。授業料が上限を超える場合、差額は自己負担です。
児童手当も、同じ形で動いています
児童手当もほぼ同様の動きをしています。
2024年10月から所得制限が撤廃され、支給対象が高校生年代まで延長されました。
第3子以降は増額もされています。
| 動き | 教育費の無償化 | 児童手当 |
|---|---|---|
| 所得制限 | 順次撤廃 | 撤廃 |
| 対象年齢 | 幼児教育→高校→大学へ | 中学生まで→高校生年代まで |
| 多子世帯 | 第3子以降を優遇 | 第3子以降を増額 |
省庁も、根拠になる法律も違います。それなのに、同じ方向に動いている。これがこの数年の子ども・子育て支援の姿だ、ということです。
広がり方には、向きがあります
このように無償化は、保育→高校→大学へと、さらに、非課税世帯のみ→中間層→所得制限撤廃へと、対象者がじわじわと広がっています。この「少しずつ」という広がり方に関連しているのが、日本が1979年に批准した国際人権規約です。この規約には「無償教育の漸進的な導入」という一文があるのですが、この漸進的とは、少しずつ進めていく、という意味です。
ただし日本は、そのすべてを受け入れたわけではありませんでした。いくつかの条文について、「ここには従わないことにします」と宣言しています。これを留保といいます。
そして、この「無償教育の漸進的な導入」という部分も、留保のひとつでした。つまり、批准はしたけれど、教育の無償化については従わない、という立場をとっていたのです。
その後、2012年に留保を撤回しました。ここから日本は「無償教育の漸進的な導入」に従う立場をとることになりました。
国家試験でも、教育費の負担軽減については何度か問われてきました。それは背景に上記の留保の撤回があったからです。そして2026年の第38回では、その背景にある国際人権規約そのものが、正面から問われています。しかも留保にまで踏み込んだ問題でした。
(国際人権規約については詳細に別途まとめてあります。準備中です)
まとめ
少子化対策のために教育費を無償にする。それはもちろん意味のあることです。
ただ、社会福祉で取り上げられるさまざまなテーマを見ていると、すべての子どもたちから、等しく教育を受ける機会を奪わないという視点のほうが重要なのではないかと感じます。
社会学者のマートンは、目標は示されているのに、それを達成するための手段が用意されていない状態を、アノミーと呼びました。頑張りたいのに、頑張るための手段がない。お金がなくて進学できない。働かなければならなくて、ゆっくり学ぶ時間がない等。生まれる家は、自分では選べませんし、コントロールできません。だからこそ、「教育の機会だけは社会が均等に用意する」そう考えるなら、国際人権規約の留保の撤回も、そういう視点によるものだったのかもしれませんね。
※ アノミーという言葉は、デュルケムの「自殺論」にも出てきますが、あちらは欲求への規制がゆるむことで生じる別の状態を指しています。混同しないようにしてください。
アノミーについてはこちらをご覧ください

デュルケムの「自殺論」はこちらです



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