法学部で勉強していた頃、国際法という分野がありました。国際法の導入部分で聞いた話を、よく覚えています。
「世界共通の決まりを作ろうとしても、それぞれの国には、それぞれの歴史があり、宗教があり、政治体制がある。だから、世界共通の決まりをすべての国に同じように適用することはできない。私たちの国でも、その決まりを受け入れるものもあれば、拒絶するものもある——」
そのとき例に挙げられたのが、公務員の団体行動権と、死刑廃止に関する考え方でした。どちらも、日本が今でも受け入れていないものです。条約や規約には、最初から批准しないものがあります。批准しても、一部を留保するものがあります。
批准とは、その条約に入ることを、国として最終的に決めることです。批准すれば、その国はその条約に縛られます。
留保とは、批准はするけれども、その一部について「ここには従いません」と宣言しておくことです。
署名から批准まで、条約がどういう順番で効き始めるのかは、別の記事にまとめました。障害者の権利に関する条約や、児童の権利に関する条約の問題を解くときにも必要になりますので、こちらも必ず確認してください。
(現在準備中)
今回のテーマは、「国際人権規約」に関する批准と留保です
国際人権規約は、5つで一組です
世界人権宣言は1948年に採択されました。この宣言は法的な拘束力がないため、新たに作られたのが、国際人権規約です。1966年に国連総会で採択され、1976年に発効しています。
まず、本体が2つに分かれます。
| 社会権規約(A規約) | 経済的、社会的及び文化的権利に関する国際規約 |
| 自由権規約(B規約) | 市民的及び政治的権利に関する国際規約 |
Aが社会権、Bが自由権。日本は1979年に、この2つとも批准しました。
そして、それぞれに選択議定書という別の条約が付いています。「選択」という名前のとおり、規約を批准した国が、さらに選んで批准するものです。
| 内容 | 日本 | |
|---|---|---|
| A規約の選択議定書 | 2008年採択。個人通報制度 | 批准していない |
| B規約の第一選択議定書 | 1966年採択。個人通報制度 | 批准していない |
| B規約の第二選択議定書 | 1989年採択。死刑の廃止 | 批准していない |
「第一」「第二」という呼び方があるのは、B規約に2つ付いているからです。A規約のほうは1つしかないので、単に選択議定書といいます。
個人通報制度というのは、権利を侵害されたと考える個人が、国内で救済されなかったときに、国連の委員会へ直接申し立てられる仕組みです。同じ内容のものが、A規約の選択議定書とB規約の第一選択議定書、その両方に用意されています。日本は、どちらも批准していません。
そして第二選択議定書。死刑の廃止を定めたものです。
冒頭に書いた、私が授業で聞いた死刑廃止の話は、これのことでした。日本は今も批准していません。
本体2つと、議定書3つ。本体は2つとも批准し、議定書は3つとも批准していない。これが日本の立ち位置です。
A規約には、3つの留保が付いていました
批准した本体のほうにも、日本は条件を付けています。A規約についての留保です。
*留保とは、批准はするけれども、その一部について「ここには従いません」と宣言しておくことです(再掲)。
1979年の批准のとき、以下の3つを留保することにしました。
①7条(d)。労働条件の規定で、公の休日についての報酬を確保すること
②8条1(d)。同盟罷業、つまりストライキをする権利
冒頭の、公務員の団体行動権の話は、これでした。民間で働く人のストライキは認められていますが、公務員は国内法でストライキが認められていません。そこで日本は、公務員のストライキについて留保しました。
③13条2(b)(c)。教育の規定で、中等教育(高校)と高等教育(大学)における「無償教育の漸進的な導入」
教育の留保だけが、2012年に撤回されました
「無償教育の漸進的な導入」に対する留保に関して動きがあったのは、それから33年後のことです。
2012年(平成24年)9月11日、日本政府は、この留保を撤回する旨を国連事務総長に通告しました。留保を撤回したということは、日本もこの規定に拘束される、ということです。
このため、私たちが受験する国家試験にも「教育の無償化」に関する問題が出題されるようになりました。そして第38回では、留保を撤回した結果として今は「教育の無償化」に拘束されている、ということそのものが問われたわけですね。
教育の無償化についてはこちらで整理してあります。

すっきり整理:日本の立場
| 規約・議定書 | 日本 |
|---|---|
| A規約(社会権規約) | 1979年に批准。ただし3つの留保あり(下記) |
| 7条(d) 公の休日についての報酬 | 今も留保している |
| 8条1(d) 同盟罷業(ストライキ)の権利 | 今も留保している |
| 13条2(b)(c) 無償教育の漸進的な導入 | 2012年9月11日に留保を撤回。今は拘束されている |
| A規約の選択議定書(個人通報制度) | 批准していない |
| B規約(自由権規約) | 1979年に批准 |
| B規約の第一選択議定書(個人通報制度) | 批准していない |
| B規約の第二選択議定書(死刑廃止) | 批准していない |
ここで過去問を確認しましょう
第38回・問題27 国際人権規約に関する次の記述のうち、適切なものを2つ選びなさい。
1 国際人権規約は、その前文で「すべての人民とすべての国とが達成すべき共通の基準」であると位置づけている。
→× 「すべての人民とすべての国とが達成すべき共通の基準」は、世界人権宣言の前文の文言です。
2 日本は、「自由権規約」への違反に関し、個人や集団が自由権規約人権委員会に通報できることを規定した「選択議定書」を批准している。
→× 個人通報制度を定めた選択議定書を、日本は批准していません。
3 日本は、「社会権規約」のうち、公務員のストライキ権等の一部の規定については、これに拘束されない権利を留保している。
→〇 A規約8条1(d)の留保です。今も撤回されていません。
4 日本は、「社会権規約」のうち、中等教育及び高等教育における無償教育の漸進的な導入に関する規定に拘束されている。
→〇 13条2(b)(c)の留保を2012年に撤回したので、現在は拘束されています。
5 「社会権規約」は、障害者に合理的配慮が提供されることを確保されるための適切な措置をとることを締約国に求めている。
→× 合理的配慮とは、2006年に採択された障害者権利条約で使用された概念です。国際人権規約の中で使われている概念ではありません。
正答 3・4
教育無償化の制度もしっかり確認しましょう!
第34回の過去問を見ると、教育の無償化そのものに焦点が当たっていました。
第38回では、なぜ教育の無償化が我が国で導入されるに至ったのか、そこに焦点が当たっています。
でも結局、根底にある事実は、国際人権規約に対する我が国の態度ですよね。
そして無償化は、現在もどんどん更新され続けています。知識をアップデートして、国家試験に備えましょう。



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