絶対的貧困と相対的貧困
貧困には「絶対的貧困」と「相対的貧困」という2つの捉え方があります。生きていくために必要なものが手に入らない状態を問題にするのが絶対的貧困、その社会の標準的な所得水準から大きく下回っている状態を問題にするのが相対的貧困です。
絶対的貧困は、生存に必要な食料や住居の費用に着目するため、このラインはどの国でもおおむね同じ高さになります。相対的貧困は、その国の人々の所得分布から貧困を捉えるため、国によってそのラインは変動します。
絶対的貧困の測り方
絶対的貧困を測る発想は、生きるために最低限必要な費用を積み上げるところから始まりました。
ラウントリー(Rowntree, B.S.)は1900年前後のイギリス・ヨーク市の調査で、食費・家賃・衣服費などを積み上げて必要な金額を算出し、それに満たない状態を第1次貧困としました。肉体を維持することすらできない水準という線の引き方です。
現在この考え方を世界規模で用いているのが、世界銀行の国際貧困線です。1日あたりの生活費がこの額に満たない状態を極度の貧困とします。国際貧困線の金額は物価の変動に応じて見直されてきました。1990年に1日1ドルとして設定され、その後1.25ドル、1.90ドル、2.15ドルと改定され、2025年6月に1日3.00ドルとなっています。
持続可能な開発目標(SDGs)の目標1は「貧困をなくそう」です。このうちターゲット1.1が、あらゆる場所で極度の貧困を終わらせることを掲げており、ここでいう極度の貧困の参照基準が世界銀行の国際貧困線です。SDGsが対象にしているのは極度の貧困だけではありません。ターゲット1.2では、各国の定義による貧困状態にある人の割合を減らすことが掲げられています。
相対的貧困の測り方
イギリスは戦後、福祉国家として貧困はなくなったと考えられていました。ところが1960年代に入り、エイベルスミス(Abel-Smith, B.)とタウンゼント(Townsend, P.)が、貧困状態にある世帯が増えていることを示します。貧困の再発見と呼ばれる出来事です。
ここで問題になったのは、生存を測る物差し(肉体を維持できるか、生きていられるか)では豊かになった社会では貧困が見えにくくなるということでした。タウンゼントは、仮に食事がとれていて、住む家があったとしても、その地域でスタンダートとされる生活様式をとることができない状態に陥ることを相対的剥奪と呼びました。つまり、「生きていけるお金」で貧困を考えるのでなく、「どのような生活ができているか」から貧困を捉え直そうとたのです。
→貧困を「発見」した4人|ブース・ラウントリーから、貧困の再発見へ
この発想を所得という軸で貧困の程度を測定しようとしたのが、相対的貧困率です。世帯の手取り収入を世帯人員に応じて1人あたりに調整し(等価可処分所得)、それを全世帯員について並べた中央値の半分を貧困線とします。この貧困線に満たない世帯員の割合が相対的貧困率です。
算出方法はOECD(経済協力開発機構)の作成基準に基づいており、各国が同じ手順で計算しているため国際比較ができます。2025(令和7)年国民生活基礎調査によると、2024(令和6)年の中央値は277万円、貧困線は138万円、相対的貧困率は15.0%です。
→相対的貧困率とは|2025年調査でみる貧困線・中央値と子どもの貧困率
→相対的貧困と相対的剥奪の違い|所得で測るか、生活様式で測るか
2つの貧困の違いを表で確認する
| 絶対的貧困 | 相対的貧困 | |
|---|---|---|
| 何を問題にするか | 生存に必要なものの欠如 | その社会の標準的な所得水準との差 |
| 線の引き方 | 生存に必要な費用から算出 | その国の所得の中央値の半分 |
| 代表的な基準 | 世界銀行の国際貧困線 | OECD基準による相対的貧困率 |
| 金額 | 1日3.00ドル | 年間138万円 |
| 国による違い | 共通の水準 | 国ごとに異なる |
過去問
第37回 問題22(社会福祉の原理と政策)
「持続可能な開発目標」(SDGs)がターゲットとしている「極度の貧困」の参照基準として,最も適切なものを1つ選びなさい。
1 ラウントリー(Rowntree, B.S.)が貧困調査で使用した「第1次貧困」
2 経済協力開発機構(OECD)で使用される「相対的貧困率」
3 国連開発計画(UNDP)で使用される「人間開発指数」
4 世界銀行で使用される「国際貧困線」
5 タウンゼント(Townsend, P.)が貧困調査で使用した「相対的剥奪指標」
解説
解説
1 →× 第1次貧困は、ラウントリーが1900年前後のヨーク市の調査で用いた基準です。生存に必要な費用を積み上げるという発想は国際貧困線と共通しますが、SDGsが参照しているのは世界銀行の基準です。
2 →× 相対的貧困率は、その国の所得分布の中でどこに位置するかを測る指標です。生存が脅かされる水準を示すものではないため、極度の貧困の基準としては使われません。
3 →× 人間開発指数は貧困線ではありません。
4 →○ 世界銀行の国際貧困線です。出題時点では1日2.15ドルでしたが、2025年6月に1日3.00ドルに改定されています。
5 →× 相対的剥奪指標はタウンゼントが用いた測定方法で、所得ではなく生活の中身から貧困を捉えるものです。
人間開発指数・相対的剥奪については別記事で扱っています。
→(人間開発指数の記事:現在準備中)
→相対的貧困と相対的剥奪の比較についてはこちらで整理しています
第34回 問題26(現:原理と政策)
イギリスにおける貧困を問う設問です。この記事に関係する選択肢を抜粋します。
3 エイベル‒スミス(Abel-Smith, B.)とタウンゼント(Townsend, P.)は,イギリスの貧困世帯が増加していることを1960年代に指摘し,それが貧困の再発見の契機となった。
4 タウンゼント(Townsend, P.)は,等価可処分所得の中央値の50%を下回る所得しか得ていない者を相対的剥奪の状態にある者とし,イギリスに多数存在すると指摘した。
解説
3 →○ 正解の選択肢です。
4 →× 等価可処分所得の中央値の50%を下回る状態は、相対的貧困率の考え方です。タウンゼントの相対的剥奪は、所得の額ではなく、その社会で当たり前とされている生活様式が選択できない状態を指します。


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