ニュー・パブリック・マネジメント(NPM)とは
ニュー・パブリック・マネジメント(NPM)は、民間企業の経営手法を行政に取り入れて、行政の仕事の効率と質を高めようとする考え方です。1980年代のイギリスやニュージーランド、オーストラリアなどで広まりました。
NPMが求めるのは、次のようなことです。
・行政が自分ですべてを行うのではなく、民間に任せられる仕事は民間に任せます。
・どれだけ予算を使ったかではなく、どのような成果が上がったかで評価します。
・複数の事業者に競争させて、価格とサービスの質を高めます。
・住民をサービスの利用者としてとらえ、利用者が選べるようにします。
背景にあるのは、大きな政府を目指した結果、財政の悪化したことです。イギリスではサッチャー政権が国営企業の民営化と公共支出の削減を進めました。行政の仕事の範囲を狭め、政府の規模を小さくしていく「小さな政府」の方向です。
日本では1990年代の後半から、この考え方に沿った制度が次々に作られました。国の事務・事業を切り離した独立行政法人制度、公共施設の整備と運営を民間に任せるPFI、行政が行ってきた業務を官と民の競争入札にかける市場化テスト、公の施設の管理を民間に任せる指定管理者制度が、その代表的なものです。
PFI
PFI(Private Finance Initiative)は、公共施設の設計、建設、維持管理、運営を、民間の資金と経営能力、技術力を活用して行う手法です。1999年(平成11年)にPFI法(民間資金等の活用による公共施設等の整備等の促進に関する法律)が制定されました。
それまでは、国や自治体が自分で資金を用意して施設を建て、建設工事だけを業者に発注し、完成後の管理も自分で行うのが基本の形でした。PFIでは、民間事業者が資金を調達して施設を建て、その後の維持管理や運営まで長期間にわたって一括して引き受けます。国や自治体は、建設費をまとめて払うのではなく、サービスの対価として事業期間にわたって分割して払っていきます。事業者はその支払いの中から借入金を返し、建設費を回収します。
PFIで作られた施設として知られているのが、刑務所です。
2007年(平成19年)、山口県美祢市に美祢社会復帰促進センターが開設されました。日本で初めてPFIの手法で整備・運営された刑務所です。同じ年に播磨社会復帰促進センター(兵庫県加古川市)と喜連川社会復帰促進センター(栃木県さくら市)が、翌2008年には島根あさひ社会復帰促進センター(島根県浜田市)が開設されました。
この4施設には、職業訓練や改善指導の一部、給食、警備の補助、施設の維持管理などを民間の職員が担当し、施設の長をはじめとする国の職員と一緒に運営しています。
島根あさひでは、地元の石見地方で作られてきた石州和紙の原料になる楮(こうぞ)の栽培や、石見神楽の面の制作を職業訓練として行っています。美祢では、市の道の駅のネットショップのサイトを受刑者が作りました。過疎が進んだ地域に施設を誘致し、地域と一緒に運営していく形が取られてきました。
*なお、この4施設は、現在はPFI法による事業から公共サービス改革法にもとづく民間委託(市場化テスト)に切り替わりました。
市場化テスト
市場化テストは、これまで行政が行ってきた業務について、行政の部署と民間事業者を同じ土俵で競争させ、価格と質の両面で優れたほうがその業務を担うという仕組みです。公共サービスの担い手を入札で決める方法で、2006年(平成18年)の公共サービス改革法(競争の導入による公共サービスの改革に関する法律)にもとづいて行われています。
入札には2つの形があります。官民競争入札は、行政の部署と民間事業者が一緒に入札に参加する形です。行政の部署が落札すれば、その業務は引き続き行政が行います。民間競争入札は、民間事業者だけが参加して競う形です。
国の業務では、次のようなものが市場化テストで民間に委託されています。
・国民年金保険料の納付案内です。保険料が未納になっている人への電話や文書による案内を民間事業者が行っています。
・社会復帰促進センターの運営です。播磨と喜連川は2022年(令和4年)4月から、美祢は2025年(令和7年)4月から、この仕組みに移りました。
・統計調査の調査員の確保や、ハローワークが行ってきた就職支援の一部も対象になってきました。
PFIと市場化テストは、どちらも公共サービスを民間に開くための仕組みですが、PFIは施設を建てるところから運営までを民間に任せる手法で、民間が資金を出して施設を整備します。市場化テストは、すでに行われている業務そのものを対象にして、その担い手を入札で決めます。
指定管理者制度
指定管理者制度は、地方公共団体が設置した公の施設の管理を、地方公共団体が指定した団体に行わせる制度です。2003年(平成15年)の地方自治法の改正で作られました。公の施設とは、住民の福祉を増進する目的でその利用に供するために地方公共団体が設けた施設で、公民館、図書館、体育館、公園、老人福祉センター、児童館、養護老人ホームなどがこれにあたります。
それまでは、公の施設の管理を任せられる相手が、地方公共団体が出資した法人や公共的団体に限られていました。指定管理者制度になって、株式会社やNPO法人も管理を担えるようになりました。
福祉の分野では、老人福祉センター、児童館、母子・父子福祉センター、障害者福祉センターなどが指定管理者制度で運営されています。大阪市には老人福祉センターが26か所あり、そのほとんどを各区の社会福祉協議会が指定管理者として運営しています。都島区のように、社会福祉協議会以外の社会福祉法人が指定管理者になっているところもあります。
指定管理者制度は、福祉の施設以外にも使われています。大阪城公園は、2015年(平成27年)4月から大阪城パークマネジメント共同事業体(大和ハウス工業、讀賣テレビ放送、電通など)が指定管理者として管理しています。天守閣も野球場も西の丸庭園も、この事業体がまとめて管理しています。大阪市が管理料を支払うのではなく、事業者が天守閣の入場料や駐車場などの収入から大阪市に納付金を納めています。公園を維持するために市が支出していた費用が、市の収入に変わりました。
指定管理者制度で管理を任せても、その施設を設置しているのは地方公共団体のままです。施設をどう使うかの基本的な枠組みは条例で決まり、指定管理者が行った管理について地方公共団体が報告を求め、調査し、必要な指示をします。指定管理者が指示に従わないときは、地方公共団体が指定を取り消すことができます。
準市場
準市場は、福祉サービスの供給に市場の仕組みを部分的に取り入れたものです。疑似市場とも呼ばれます。イギリスで1990年代に医療や教育、対人サービスの分野に導入されたのが始まりで、日本では介護保険制度や障害福祉サービス、保育がこの形になっています。
ふつうの市場では、売り手と買い手が価格を通じてつり合い、支払える人がサービスを受け取ります。準市場は、そこに次のような修正を加えています。
・費用を利用者が全額負担するのではなく、公費や社会保険でまかないます。所得の多い少ないによって受けられるサービスに差が出ないようにするためです。
・価格が事業者ごとに自由に決まるのではなく、介護報酬のように公定価格が定められます。
・サービスを提供する事業者は複数あり、競争します。社会福祉法人などの非営利の事業者だけでなく、営利事業者もNPO法人も参入できます。
・利用者が事業者を選び、契約します。行政が利用者に事業者を割り当てるのではありません。
過去問を解いてみましょう
第34回問題29
福祉政策と市場の関係などに関する次の記述のうち、最も適切なものを1つ選びなさい。
1 公共サービスの民営化の具体的方策として、サービス供給主体の決定に、官民競争入札及び民間競争入札制度を導入する市場化テストがある。
2 準市場では、行政主導のサービス供給を促進するため、非営利の事業者間での競争を促す一方で、営利事業者の参入を認めないという特徴がある。
3 プライベート・ファイナンス・イニシアティブ(PFI)とは、公有財産を民間に売却し、その利益で政府の財政赤字を補填することである。
4 指定管理者制度とは、民間資金を使って公共施設を整備することである。
5 ニュー・パブリック・マネジメント(NPM)では、政府の再分配機能を強化し、「大きな政府」を実現することが目標とされる。
解説
1 ○ 市場化テストは、公共サービス改革法にもとづいて、官民競争入札または民間競争入札によってサービスの供給主体を決める仕組みです。
2 × 準市場では、営利事業者もNPO法人も参入することができます。
3 × PFIは、民間の資金と経営能力を活用して公共施設を整備し、運営する手法です。公有財産を売却するものではありません。
4 × 民間資金を使って公共施設を整備するのはPFIです。指定管理者制度は、地方公共団体の公の施設の管理を、指定した団体に行わせる制度です。
5 × NPMは、民間企業の経営手法を行政に取り入れて行政を効率化する考え方で、「小さな政府」を目指す方向のものです。
正答 1
第36回問題22
福祉における政府と民間の役割に関する次の記述のうち、最も適切なものを1つ選びなさい。
1 平行棒理論とは、救済に値する貧民は救貧行政が扱い、救済に値しない貧民は民間慈善事業が扱うべきだとする考え方を指す。
2 繰り出し梯子理論とは、ナショナルミニマムが保障された社会では、民間慈善事業が不要になるとの考え方を指す。
3 社会市場のもとでは、ニーズと資源との調整は、価格メカニズムにより行われ、そこに政府が関与することはない。
4 準市場のもとでは、サービスの供給に当たり、競争や選択の要素を取り入れつつ、人々の購買力の違いによる不平等を緩和するための施策が講じられることがある。
5 ニュー・パブリック・マネジメント(NPM)とは、福祉サービスの供給に参入した民間企業の経営効率化のために、その経営に行政職員を参画させる取組を指す。
解説
1 × 平行棒理論では、救済に値する貧民を民間慈善事業が扱い、救済に値しない貧民を救貧行政が扱うとされました。記述は逆になっています。
2 × 繰り出し梯子理論は、ナショナルミニマムを公的な制度が保障したうえで、それより高い水準のサービスを民間慈善事業が担うという考え方です。
3 × 社会市場では、政府が財源を出し、基準を定めることで関与します。価格メカニズムだけで調整されるものではありません。
4 ○ 準市場は、事業者を競争させて利用者が選べるようにしながら、費用を公費や社会保険でまかない、所得によって受けられるサービスに差が出ないようにしています。
5 × NPMは、行政の側が民間企業の経営手法を取り入れる取組です。民間企業の経営に行政職員が入っていくものではありません。
正答 4
第28回問題29
福祉サービスにおける準市場(疑似市場)に関する次の記述のうち、適切なものを1つ選びなさい。
1 利用者のサービス選択を支援する仕組みが必要である。
2 サービスの質のモニタリングは不要である。
3 同一地域におけるサービスの供給者は1つに限定される。
4 営利事業者やNPOが参入できないよう、規制される。
5 自治体が、福祉サービスの購入者となることが前提である。
解説
1 ○ 利用者が自分で情報を集めて事業者を比べることは簡単ではありませんので、介護支援専門員や相談支援専門員が選択を支えます。
2 × 事業者を競争させると費用を切り詰めて質が落ちる可能性がありますので、質を確かめる仕組みが必要です。
3 × 利用者が選べるように、複数の事業者がサービスを提供します。
4 × 営利事業者もNPO法人も参入することができます。
5 × 自治体が購入者になる場合もありますが、介護保険のように利用者本人が事業者を選んで契約する形もあります。自治体が購入者になることが前提ではありません。
正答 1
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