日本とアメリカの医療保障の違い
語呂合わせで、年表を覚えようとしていませんか。法律は、いつできたかではなく、どのような背景で、どのような内容だったかを覚えていないと解けません。時代背景と一緒に、流れで覚えていきましょう。
日本では、1922年に健康保険法が制定され、1938年には国民健康保険法が制定されました。その後、1958年に国民健康保険法が全面改正され、1961年に国民皆保険が実現しています。
日本では、誰もが何かの公的な医療保険に入っているという状態が当たり前になっていますが、アメリカはいまだに国民皆保険になっていません。その理由を、アメリカの社会保障の歴史から確認します。この記事の中心は、1935年の社会保障法、1964年の公民権法、1965年のメディケアとメディケイド、1990年のADA、1996年のTANF、2010年のオバマケアです。
社会保障法の制定(1935年)
1929年の世界恐慌によって大量の失業者が発生したことを受け、アメリカのローズヴェルト大統領は、ニューディール政策の一環として1935年に社会保障法を制定しました。「社会保障」という言葉が世界で初めて法律の名前に使われました。
社会保障という言葉には、年金、失業保険、公的扶助、社会福祉サービス、医療保障が含まれることが多いのですが、アメリカの社会保障法に医療保障は盛り込まれませんでした。
国家試験では、次のように出題されました。
○「社会保障法の制定」(第36回問題23)→1935年の社会保障法の制定です。
公民権法の制定(1964年)
公民権法は、人種、肌の色、宗教、性別、出身国による差別を禁止した法律です。1950年代から60年代にかけて、キング牧師らが中心となった公民権運動が広がり、ジョンソン政権のもとで成立しました。
公民権法は、雇用、ホテルやレストランなどの公共施設、教育などの場面での差別を禁じています。年金や医療などの給付を定めた法律ではありません。障害による差別は、この法律の対象に含まれていませんでした。
公民権法は1964年で、ニューディール政策から約30年後です。
国家試験では、次のように出題されました。
×「公民権法の制定」(第36回問題23)→公民権法の制定は1964年です。
メディケアとメディケイドの創設(1965年)
1960年代のアメリカでは、豊かな社会の中に貧困が広がっていることが改めて注目されました。この状況を受けて、「偉大な社会」を掲げたジョンソン政権は、貧困対策の一つとして社会保障法を改正し、2つの公的医療保障制度を創設しました。メディケアとメディケイドです。
メディケアは高齢者などを対象とする公的医療保険、メディケイドは低所得者を対象とする医療扶助です。この2つがカバーするのは高齢者、障害者、低所得者で、全国民ではありません。ここでも国民皆保険には至りませんでした。
国家試験では、次のように出題されました。
×「メディケア(高齢者等の医療保険)の導入」(第36回問題23)→メディケアの導入は1965年です。1935年の社会保障法に医療保障は含まれていません。
×「アメリカの公的医療保障制度には、低所得者向けのメディケアがある。」(第33回問題27)→低所得者を対象とするのはメディケイドです。メディケアは高齢者などを対象としています。
×「アメリカには、全国民を対象とする公的な医療保障制度が存在する。」(第31回問題55)→アメリカに全国民を対象とする公的な医療保障制度はありません。
×「アメリカでは、連邦政府運営の公的医療保険によって国民皆保険を実現している。」(第37回問題36)→アメリカに連邦政府が運営する全国民向けの公的医療保険はありません。メディケアは高齢者など、メディケイドは低所得者が対象です。
アメリカとイギリスの貧困の再発見についての記事はこちら
→マイルズ「リッチモンドに帰れ」パールマン「ケースワークは死んだ」どういう意味?
ADA(障害を持つアメリカ人法)の制定(1990年)
ADA(障害を持つアメリカ人法)は、障害に基づく差別を明確かつ包括的に禁止した法律です。公民権法が対象にしていなかった障害による差別を、ブッシュ(父)政権のもとで禁止しました。
ADAは、雇用、公共サービス、民間の店舗やホテルなどの施設、通信の場面での差別を禁止し、事業主などに合理的配慮を求めています。
ADAは1990年の制定で、ニューディール政策から約60年後です。
国家試験では、次のように出題されました。
×「ADA(障害を持つアメリカ人法)の制定」(第36回問題23)→ADAの制定は1990年です。
福祉改革 AFDCからTANFへ(1996年)
1990年代には、クリントン大統領が公的扶助の大きな見直しを行いました。1996年、従来の要扶養児童家族扶助(AFDC)が廃止され、貧困家族一時扶助(TANF)が創設されました。受給期間の制限と就労要件が課され、政策の方向は「福祉から就労へ」と大きく変わりました。この考え方をワークフェアと呼びます。
国家試験では、次のように出題されました。
×「TANF(貧困家族一時扶助)の導入」(第36回問題23)→TANFの導入は1996年です。
医療保険改革法・オバマケア(2010年)
2010年、オバマ政権のもとで医療保険改革法(オバマケア)が成立しました。すべての国民に民間の医療保険への加入を義務付ける内容です。無保険者は大きく減りましたが、それでも無保険者は残っており、現在も国民皆保険は実現していません。
すっきり整理 アメリカの社会保障の年表
イギリスの歴史もあわせてどうぞ
イギリスの歴史は、4回に分けてまとめています。
→イギリスの歴史①|エリザベス救貧法・スピーナムランド制度から新救貧法へ
→イギリスの歴史②|COS・セツルメント運動から広がる民間の力
→イギリスの歴史③|ブース・ラウントリーの貧困調査からナショナル・ミニマム、ベヴァリッジ報告へ
→イギリスの歴史④|福祉国家の完成からサッチャー・ブレアへ
海外の福祉の歴史の一問一答についての記事はこちら
→海外の福祉の歴史の一問一答(50問)|イギリスの救貧法と報告書・アメリカの社会保障
→海外の社会保障の過去問|アメリカ・イギリス・ドイツ・スウェーデンの制度と福祉の歴史
ほかの分野の歴史の記事はこちら
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過去問を解いてみましょう
第37回 社会保障 問題36
諸外国における公的医療と公的年金の制度に関する次の記述のうち、最も適切なものを1つ選びなさい。
1 フランスの公的医療保険は、制度創設以来、外来診療については現物給付を原則としている。
2 ドイツの公的年金制度は、全国民共通の一元的な所得比例年金の構造となっている。
3 スウェーデンの公的年金制度は、完全積立の財政方式をとっている。
4 イギリスでは、租税を主財源とする医療サービスにより公的医療を保障している。
5 アメリカでは、連邦政府運営の公的医療保険によって国民皆保険を実現している。
解説
1→× フランスの外来診療は、患者がいったん窓口で支払い、あとから払い戻しを受ける償還払いが原則です。
2→× ドイツの公的年金は被用者を中心とする制度で、公務員などは別の仕組みです。全国民共通の一元的な制度ではありません。
3→× スウェーデンの公的年金は賦課方式を基本にしています。完全積立ではありません。
4→○ イギリスの国民保健サービス(NHS)は、租税を主な財源としています。
5→× アメリカに連邦政府が運営する全国民向けの公的医療保険はありません。メディケアは高齢者など、メディケイドは低所得者が対象です。
第36回 現代社会と福祉 問題23
次のうち、1930年代のアメリカにおけるニューディール政策での取組として、正しいものを1つ選びなさい。
1 社会保障法の制定
2 公民権法の制定
3 メディケア(高齢者等の医療保険)の導入
4 ADA(障害を持つアメリカ人法)の制定
5 TANF(貧困家族一時扶助)の導入
(注)「障害を持つアメリカ人法」とは、「障害に基づく差別の明確かつ包括的な禁止について定める法律」のことである。
解説
1→○ 1935年の社会保障法の制定です。
2→× 公民権法の制定は1964年です。
3→× メディケアの導入は1965年です。1935年の社会保障法に医療保障は含まれていません。
4→× ADAの制定は1990年です。
5→× TANFの導入は1996年です。
第33回 現代社会と福祉 問題27
各国の社会福祉や社会保障の現状に関する次の記述のうち、最も適切なものを1つ選びなさい。
1 アメリカの公的医療保障制度には、低所得者向けのメディケアがある。
2 スウェーデンの社会サービス法では、住民が必要な援助を受けられるよう、コミューンが最終責任を負うこととなっている。
3 ドイツの社会福祉制度は、公的サービスが民間サービスに優先する補完性の原則に基づいている。
4 中国の計画出産政策は、一組の夫婦につき子は一人までとする原則が維持されている。
5 韓国の高齢者の介護保障(長期療養保障)制度は、原則として税方式で運用されている。
解説
1→× 低所得者を対象とするのはメディケイドです。メディケアは高齢者などを対象としています。
2→○ スウェーデンの社会サービス法では、コミューンが最終的な責任を負います。
3→× ドイツの補完性の原則は、民間のサービスを公的なサービスに優先させる考え方です。
4→× 一人までとする原則は維持されていません。2016年から2人目、2021年から3人目が認められています。
5→× 韓国の高齢者長期療養保険は社会保険方式です。税方式ではありません。
第31回 社会保障 問題55
諸外国における医療や介護の制度に関する次の記述のうち、正しいものを2つ選びなさい。
1 アメリカには、全国民を対象とする公的な医療保障制度が存在する。
2 イギリスには、医療サービスを税財源により提供する国民保健サービスの仕組みがある。
3 フランスの医療保険制度では、被用者、自営業者及び農業者が同一の制度に加入している。
4 ドイツの介護保険制度では、介護手当(現金給付)を選ぶことができる。
5 スウェーデンには、介護保険制度が存在する。
解説
1→× アメリカに全国民を対象とする公的な医療保障制度はありません。
2→○ イギリスの国民保健サービス(NHS)は税財源です。
3→× 出題当時のフランスの医療保険は、被用者、自営業者、農業者で制度が分かれていました。
4→○ ドイツの介護保険では、現物給付のほかに現金給付である介護手当を選ぶことができます。
5→× スウェーデンに介護保険制度はありません。介護はコミューンが税財源で提供しています。


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