今回のテーマは「障害者福祉の理念」です。ノーマライゼーションとIL運動(自立生活運動)を、人物とセットで整理します。
ノーマライゼーションはデンマーク→スウェーデン→アメリカ大陸へ北欧で広がった理念
IL運動はアメリカで生まれた運動です。
どちらも「施設や保護の対象から、地域で暮らす主体へ」という同じ方向を向いています。
①ノーマライゼーション(バンク=ミケルセン)
ノーマライゼーションの理念を最初に打ち出したのは、デンマークのバンク=ミケルセンです。「ノーマライゼーションの父」と呼ばれます。
当時のデンマークでは、知的障害のある人は大規模な入所施設で暮らすのが当たり前でした。その状況に対して、知的障害のある子どもの親の会が声を上げます。バンク=ミケルセンは行政官としてこの運動に関わり、1959年、ノーマライゼーションの理念を盛り込んだ法律(1959年法)の制定に尽力しました。
ポイントは、障害のある人を「ノーマルにする」のではなく、障害のある人の生活条件を「ノーマルにする」という考え方だということです。変わるべきは本人ではなく、環境や社会の側です。
②8つの原理(ニィリエ)
バンク=ミケルセンの理念を、誰にでも使える形に定式化したのが、スウェーデンのニィリエです。「ノーマライゼーションの育ての親」と呼ばれます。
ニィリエは、ノーマライゼーションを8つの原理として整理しました。一日のノーマルなリズム、一週間のノーマルなリズム、一年間のノーマルなリズム、ライフサイクルにおけるノーマルな経験、ノーマルな要求の尊重、異性との生活、ノーマルな経済水準、ノーマルな環境水準です。
ポイントは、朝起きて、着替えて、日中は家とは別の場所で過ごし、週末には休む・・・そうした当たり前の生活のリズムを、障害のある人にも保障するという発想だということです。
③ソーシャルロールバロリゼーションとPASS(ヴォルフェンスベルガー)
ノーマライゼーションの理念を北米に紹介し、発展させたのがヴォルフェンスベルガーです。
ヴォルフェンスベルガーは、ノーマライゼーションをソーシャルロールバロリゼーション(社会的役割の実現)という概念に発展させました。障害のある人が社会の中で価値ある役割を得ることを重視する考え方です。また、福祉サービスがノーマライゼーションの理念に適合しているかを評価(点数化)する手段として「PASS」を開発しました。
④IL運動(ロバーツ)→ピープルファースト
舞台はアメリカに移ります。IL運動(自立生活運動)のリーダーが、エド・ロバーツです。
ロバーツ自身に重度の身体障害がありましたが、カリフォルニア大学バークレー校に入学しました。多くの仲間に助けられながら、大学を卒業し、1972年、仲間とともにバークレーに自立生活センター(CIL)を設立します。CILは、障害当事者自身が運営し、当事者がサービスを提供する組織です。
それまで自立とは、身の回りのことが自分でできること(ADLの自立)を指していました。着替えも、食事も、移動も、自分の力でできるようになることが目標とされていたのです。
IL運動は、これとは異なる自立の考え方を示しました。ロバーツが残した有名な言葉があります。
「2時間かけて自分の力で服を着て、疲れ果てて外出できない生活より、介助を受けて15分で着替えを済ませ、残った時間と体力で学校や仕事に行く生活のほうがよほど自立している」
IL運動によって、誰の手も借りないことが自立なのではなく、介助を受けていても、自分の生活のあり方を自分で決めることが自立なのだという考えに変わりました。自己決定としての自立。この考え方は、その後の障害者福祉全体の土台になっていきます。
当事者自身が声を上げるという動きは、知的障害の分野にも広がります。1970年代、知的障害のある当事者が自分たちのことを自分たちで発言していく運動として、ピープルファーストが生まれました。「障害者である前に、まず人間として(people first)扱ってほしい」という当事者の言葉が名前の由来です。このような当事者自身による活動をセルフアドボカシーといいます。
すっきり整理:比較表
| 人物 | 国 | キーワード |
|---|---|---|
| バンク=ミケルセン | デンマーク | ノーマライゼーションの父・1959年法 |
| ニィリエ | スウェーデン | 8つの原理・一日のノーマルなリズム |
| ヴォルフェンスベルガー | アメリカ(北米) | ソーシャルロールバロリゼーション・PASS |
| ロバーツ | アメリカ | IL運動・バークレーCIL・自己決定としての自立 |
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第38回 問題52(障害者福祉の理念)
1 バンク-ミケルセン(Bank-Mikkelsen, N.)は、ノーマライゼーションの理念に適合しているか否かの観点から、福祉サービスの質を評価する手段として「PASS」を開発した。
→× PASSを開発したのはヴォルフェンスベルガーです。
2 ヴォルフェンスベルガー(Wolfensberger, W.)は、デンマークにおいてノーマライゼーションの理念に基づく知的障害者福祉法の制定に尽力した。
→× デンマークの1959年法に尽力したのはバンク=ミケルセンです。
3 ニィリエ(Nirje, B.)は、知的障害者に一日のノーマルなリズムを提供する観点から、ノーマライゼーションの8つの原則を示した。
→〇
4 ソロモン(Solomon, B.)は、カリフォルニアでの身体障害者の自立生活運動のリーダーとなり、障害者の生活に大きな影響を与えた。
→× 自立生活運動のリーダーはロバーツです。ソロモンはエンパワメントアプローチの提唱者です。

5 ロバーツ(Roberts, E.)は、カナダで生まれたセルフアドボカシー団体であるピープルファーストの活動に尽力した。
→× ロバーツは自立生活運動(IL運動)のリーダーで、バークレーに自立生活センター(CIL)を設立した人物です。ピープルファーストは知的障害のある当事者によるセルフアドボカシー団体です。
第37回問題66(ソーシャルワークの基盤と専門職) 事例を読んで、A社会福祉士の発言の基盤となっている考え方を提示した人物として、最も適切なものを1つ選びなさい。
〔事例〕地域活動支援センターで指導員として勤務するAが、地域自立支援協議会の実務者会議に出席したところ、管轄地域内における今後の生活支援の方向性を問われた。そのため、日頃の相談支援活動を踏まえて「私は、障害のある方々の様々な活動が価値ある役割として、社会に認められていくための取組を、私たちはこれからも続けていくことが大切だと思います」と発言し、出席者から賛同を得た。
1 バンク‐ミケルセン(Bank‐Mikkelsen, N.) 2 ニィリエ(Nirje, B.) 3 ソロモン(Solomon, B.) 4 ヴォルフェンスベルガー(Wolfensberger, W.) 5 バンクス(Banks, S.)
1→× バンク‐ミケルセンはノーマライゼーションの生みの親であり、環境の整備を重視した。
2→× ニィリエはノーマライゼーションの8つの原理を体系化した人物である。
3→× ソロモンはエンパワメントアプローチを提唱した人物である。
4→○ 「価値ある役割として社会に認められる」という発言はソーシャルロールバロリゼーションの考え方そのもので、ヴォルフェンスベルガーの理論に基づく。
5→× バンクスはソーシャルワークの倫理と価値について論じた人物である。
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