医療観察法と対象者
正式名称は「心神喪失等の状態で重大な他害行為を行った者の医療及び観察等に関する法律」です。2003年(平成15年)に成立し、2005年(平成17年)に施行されました。
目的は、対象者の社会復帰を促進することです。刑罰を科すための制度ではありません。
対象となるのは、次の2つを満たす場合です。
①重大な他害行為を行ったこと
②心神喪失または心神耗弱の状態にあったとして、不起訴処分となった、または無罪等が確定したこと
重大な他害行為とは、殺人、放火、強盗、不同意性交等、不同意わいせつ、傷害にあたる行為です。すべての犯罪行為が対象になるわけではありません。
刑法39条には「心神喪失であれば罰しない」「心神耗弱であれば刑を減軽する」と規定されています。ここで手続が終わってしまうと、必要な医療を受けられないまま社会に戻ることになります。そこで、医療によって社会復帰を図る仕組みとして作られたのが医療観察法です。
→刑法の心神喪失と心神耗弱の違い|弁識能力と制御能力で判断する
審判と決定
心神喪失または心神耗弱を理由に、不起訴処分となった場合や無罪等が確定した場合、その時点で刑事手続は終わり、そこから医療観察法の手続きに移ります。主な手続きは以下の通りです。
・申立てを行うのは検察官で、申立てを受けた地方裁判所が審判を行う
・審判を担当するのは、裁判官1名と精神保健審判員1名の合議体。精神保健審判員は、精神科医の中から任命。
・決定の内容は、入院決定、入院によらない医療を受けさせる決定(通院決定)、この法律による医療を行わない決定
*入院、退院、処遇の終了を決定するのは、いずれも裁判所です。医療機関や保護観察所が決定するのではありません。
入院と通院
入院決定を受けた場合、指定入院医療機関に入院します。指定入院医療機関は、厚生労働大臣が指定した病院です。
退院するには、入院している医療機関の判断ではなく、裁判所の退院許可の決定が必要です。通院決定を受けた場合、または退院した場合は、指定通院医療機関に通院します。期間は原則3年ですが、2年を超えない範囲で延長できますので、最長で5年となります。
社会復帰調整官と精神保健観察
通院期間中、対象者は精神保健観察に付されます。これを担当するのが、保護観察所に配置された社会復帰調整官です。
社会復帰調整官は、精神保健福祉士などの資格をもつ職員です。次のような業務を担当します。
・審判における生活環境の調査
・入院中の生活環境の調整
・通院期間中の精神保健観察
・関係機関との連携(ケア会議の開催など)
精神保健観察では、対象者の通院状況や生活状況を見守り、必要な指導を行います。
また、医療観察法には「保護観察官」と「保護司」は関与していません。
社会復帰調整官も保護観察官も、保護観察所に配置されていますが、担当する法律が違うので注意しましょう。
注意点を2点
・対象者の処遇の実施計画は、保護観察所の長が関係機関と協議して定めます。
・医療観察法による通院中であっても、病状によっては、精神保健福祉法の医療保護入院などの措置がとられることがあります。
精神保健福祉法の入院形態についてはこちらをご参照ください
→精神保健福祉法5つの入院形態の覚え方|医療保護入院と措置入院の違いを表で整理
過去問を確認しましょう
第38回問題62
「医療観察法」及び医療観察制度に関する次の記述のうち,正しいものを 1 つ選びなさい。
1 医療観察制度の対象は,病気を理由に刑の執行停止を受けて刑務所を釈放された者である。
2 社会復帰調整官は,地方更生保護委員会に配置される。
3 「医療観察法」の目的は,地域社会において刑罰を執行することにある。
4 「医療観察法」に基づく「入院をさせる旨の決定」は医療機関が行う。
5 「医療観察法」において,入院によらない医療を行う期間中は,精神保健観察に付することとされている。
解説
正答は5です。
1→× 対象は、心神喪失等の状態で重大な他害行為を行い、不起訴処分となった人や無罪等が確定した人です。
2→× 社会復帰調整官は保護観察所に配置されます。
3→× 目的は対象者の社会復帰を促進することです。刑罰を執行する制度ではありません。
4→× 入院の決定を行うのは裁判所です。
5→○ 記述のとおりです。
第37回問題62
事例を読んで,「医療観察法」に基づく地域処遇に関する次の記述のうち,最も適切なものを 1 つ選びなさい。
〔事 例〕
Aさん(30 歳)は「医療観察法」に基づく入院決定を受け,指定入院医療機関に入院していたが,その後,退院許可の決定を受け,現在は,地域処遇を受けて指定通院医療機関に通院している。
1 Aさんの精神保健観察は,保護観察所の保護観察官が担当する。
2 Aさんが「精神保健福祉法」に基づく医療保護入院となることはない。
3 Aさんの地域処遇が 3 年を超えて実施されることはない。
4 Aさんの地域処遇の期間は,保護観察所長の決定により短縮することがある。
5 Aさんの処遇の実施計画は,保護観察所長が関係機関と協議して定める。
解説
正答は5です。
1→× 精神保健観察を担当するのは社会復帰調整官です。
2→× 医療観察法による通院中であっても、精神保健福祉法による入院ができないわけではありません。
3→× 原則3年ですが、2年を超えない範囲で延長することができます。
4→× 期間の短縮を決定するのは裁判所です。
5→○ 記述のとおりです。
第36回問題149
事例を読んで,社会復帰調整官の対応として,最も適切なものを 1 つ選びなさい。
〔事 例〕
精神保健観察中のKさんは,地域生活を送っている中で家族関係が悪化し,仕事にも行けなくなってきた。保護観察所は,関係機関の担当者とともにケア会議を開催し,Kさんの状態の情報共有と今後の処遇について話し合った。
1 Kさんが継続的に医療を受けるよう,保護司に指導を指示する。
2 指定通院医療機関への通院状況を確認する。
3 精神保健観察の期間延長を決定する。
4 指定入院医療機関に入院させることを決定する。
5 今回作成する処遇の実施計画の内容をKさんに秘匿することを決定する。
解説
正答は2です。
1→× 医療観察制度に保護司は関与しません。
2→○ 通院状況の確認は、精神保健観察における社会復帰調整官の業務です。
3→× 期間の延長を決定するのは裁判所です。
4→× 入院を決定するのは裁判所です。
5→× 処遇の実施計画を対象者に秘匿することは、社会復帰の促進という目的に反します。
第35回問題150
「医療観察法」が定める医療観察制度に関する次の記述のうち,最も適切なものを 1 つ選びなさい。
1 対象となる行為は,殺人,放火,強盗,強制わいせつ,強制性交等及び傷害等に当たる行為である。
2 社会復帰調整官は,各地方裁判所に配属されている。
3 入院決定を受けた者に対して医療を実施する指定入院医療機関は,都道府県知事が指定した病院である。
4 通院決定がなされた場合,指定通院医療機関による医療を受けることができる期間の上限は 10 年である。
5 地域社会における精神保健観察は,保護観察官と保護司が協働して実施すると規定されている。
解説
正答は1です。
1→○ 記述のとおりです。すべての犯罪行為が対象になるわけではありません。
2→× 社会復帰調整官は保護観察所に配置されます。
3→× 指定入院医療機関を指定するのは厚生労働大臣です。
4→× 原則3年、延長しても最長5年です。
5→× 精神保健観察を実施するのは社会復帰調整官です。
第34回問題150
事例を読んで,B社会復帰調整官の業務として,最も適切なものを 1 つ選びなさい。
〔事 例〕
保護観察所のB社会復帰調整官は,「医療観察法」に基づく処遇の対象者であるCさん(30 歳)を担当することになった。Cさんは「医療観察法」第 107 条に規定されている「守るべき事項」により届け出た居住地で生活している。
1 Cさんの居住地の保護司にCさんの処遇判断を委ねる。
2 Cさんの「守るべき事項」に,必要に応じて新たな事項を加える。
3 Cさんの通院状況や生活状況を見守るとともに,必要な指導を行う。
4 Cさんの病状が悪化した場合,指定入院医療機関への入院を決定する。
5 Cさんの病状が安定した場合,「医療観察法」による医療の終了を決定する。
解説
正答は3です。
1→× 医療観察制度に保護司は関与しません。
2→× 「守るべき事項」は法律に定められているもので、社会復帰調整官が追加できるものではありません。
3→○ 精神保健観察における社会復帰調整官の業務です。
4→× 入院を決定するのは裁判所です。
5→× 医療の終了を決定するのは裁判所です。
第33回問題149
「医療観察法」が定める医療観察制度に関する次の記述のうち、正しいものを1つ選びなさい。
1 精神保健観察は、刑法上の全ての犯罪行為に対して適用される制度である。
2 医療観察制度における医療は、法務大臣が指定する指定入院医療機関又は指定通院医療機関で行われる。
3 医療観察制度による処遇に携わる者は、心神喪失等の状態で重大な他害行為を行った者が円滑に社会復帰をすることができるように努めなければならない。
4 精神保健観察に付された者には、保護司によって「守るべき事項」が定められる。
5 精神保健観察に付される期間は、通院決定又は退院許可決定があった日から最長10年まで延長できる。
解説
正答は3です。
1→× 対象となるのは、殺人、放火、強盗、性犯罪、傷害にあたる行為です。すべての犯罪行為ではありません。
2→× 指定するのは厚生労働大臣です。
3→○ 記述のとおりです。
4→× 「守るべき事項」は法律に定められているもので、保護司が定めるものではありません。
5→× 原則3年、延長しても最長5年です。
第30回問題150
事例を読んで、医療観察中にD社会復帰調整官がEさんに対して行うことのできた業務として、最も適切なものを1つ選びなさい。
〔事 例〕
保護観察所のD社会復帰調整官は、医療観察の対象者であるEさんを担当して、指定入院医療機関に入院中の生活環境の調整に始まり、関係機関との連携を図るケア会議を開催した。その後、Eさんは退院し、入院によらない医療を受けながら自宅での生活を行った。その間、精神科病院への一時的入院もあったが、法定期間満了前に処遇の終了を迎えることができた。
1 Eさんの生活環境の調整を保護司に委ねた。
2 Eさんの精神保健観察中に「守るべき事項」を決定した。
3 開催されたケア会議において、Eさんの退院許可の決定を行った。
4 入院によらない医療を受けているEさんに対して、「精神保健福祉法」の規定による入院を行うための調整をした。
5 Eさんの指定通院医療機関による医療の終了を決定した。
解説
正答は4です。
1→× 医療観察制度に保護司は関与しません。
2→× 「守るべき事項」は法律に定められているものです。
3→× 退院許可を決定するのは裁判所です。
4→○ 医療観察法による通院中であっても、精神保健福祉法による入院が必要になることがあります。その調整は社会復帰調整官の業務です。
5→× 医療の終了を決定するのは裁判所です。


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