刑法の責任能力
刑法では、責任能力がなければ犯罪は成立しません。責任能力が問題になるのは、次の2つの場合です。
①精神の障害がある場合(心神喪失・心神耗弱)
②年齢が低い場合(14歳未満)
順に見ていきます。
心神喪失と心神耗弱
刑法39条は、次のように定めています。
1項 心神喪失者の行為は、罰しない。
2項 心神耗弱者の行為は、その刑を減軽する。
心神喪失であれば処罰されず、心神耗弱であれば刑が減軽されます。2項は「減軽することができる」ではなく「減軽する」と定められていますので、心神耗弱と認められれば必ず減軽されることになります。
刑法には、心神喪失と心神耗弱の定義は書かれていませんが、判例によって、次の2つの能力を基準に判断されるとされています。
弁識能力 物事の善悪を判断する能力
制御能力 その判断に従って行動する能力
心神喪失は、精神の障害により、弁識能力と制御能力のうち両方またはいずれかが欠けている状態です。
心神耗弱は、弁識能力と制御能力のうちどちらかでも著しく減退している状態です。
*心神喪失は、弁識能力と制御能力のいずれかが欠けている状態でも成立します。弁識能力があっても、その判断に従って行動することができなければ、心神喪失になります。
刑事責任年齢
刑法41条は「14歳に満たない者の行為は、罰しない」と定めています。これが刑事責任年齢です。
14歳未満であれば、一律に責任能力がないものとされ、犯罪は成立しません。
14歳以上の少年については以下の記事をご覧ください。
民法の責任能力との違い
ここまで刑法の責任能力を見てきましたが、「責任能力」も「弁識」も、民法にも出てくる言葉です。権利擁護を支える法制度の科目で学ぶ内容と重なりますので、整理しておきましょう。
民法の責任能力は、他人に損害を与えたときに、賠償の責任を負えるかどうかを問うものです。年齢の目安はおおむね11歳から12歳程度とされています。
民法の責任能力→賠償責任を負えるかどうか
刑法の責任能力→刑罰を科すことができるか
また、民法の事理弁識能力は、成年後見制度で用いられる言葉で、財産の管理や取引の意味を理解できるかどうかを問うものです。刑法の弁識能力は、物事の善悪を判断できるかどうかを問うものです。
民法の事理弁識能力→財産の管理や取引の意味を理解できるか(成年後見で用いられる概念)
刑法の弁識能力→物事の善悪を判断できるかどうか
民法の能力についてはこちらに記載しています
→権利能力・意思能力・行為能力・事理弁識能力|違いを整理
→責任能力(民法712条・713条)|責任無能力者と法定監督義務者責任の関係
過去問を確認しましょう
第37回問題58
犯罪の成立要件と責任能力に関する次の記述のうち,最も適切なものを 1 つ選びなさい。
1 正当行為,正当防衛,あるいは緊急避難が認められた場合には,有責性がないものとして,無罪になる。
2 正当防衛とは,正当な侵害に対して,自己または他人の権利を防衛するため,やむを得ずにした行為のことをいう。
3 弁識能力及び制御能力の両方またはいずれかが欠けていれば,心神喪失となり,またどちらかでも能力が著しく減退していれば心神耗弱となる。
4 心神喪失の場合には,刑法上の犯罪が成立せずに無罪となり,心神耗弱の場合には,刑の言渡しが猶予される。
5 16 歳未満の者の行為については,一律に責任能力に欠けるものとされており,犯罪は成立しない。
解説
正答は3です。
1→× 正当行為、正当防衛、緊急避難が認められた場合は、違法性がないものとされます。有責性ではありません。
2→× 正当防衛は、正当な侵害ではなく「急迫不正の侵害」に対して行われるものです(刑法36条1項)。
1と2は、犯罪の成立要件についての記述です。こちらは別の記事にまとめています。
→犯罪の成立要件|構成要件該当性・違法性・有責性
3→○ 記述のとおりです。
4→× 心神耗弱の場合は、刑の言渡しが猶予されるのではなく、刑が減軽されます。
5→× 刑法41条により、責任能力がないものとされるのは14歳未満です。


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