権利擁護の科目で出題された憲法の問題
権利擁護(旧カリでは「権利擁護と成年後見制度」)の科目では、第27回から第38回までの12回で、日本国憲法の問題が7問出題されています。出題された内容は以下の通りです。
憲法の基本的人権の全体像についての記事はこちら。
→憲法の基本的人権|自由権と社会権の違いと幸福追求権
幸福追求権(13条)
13条は、すべて国民は個人として尊重されると定め、生命、自由及び幸福追求に対する国民の権利を保障しています。この権利を幸福追求権といいます。憲法には、「プライバシー権」や「肖像権」という言葉は使われていませんが、最高裁判所は、これらの権利を13条の幸福追求権から導き、新しい人権と位置付けてきました。新しい人権は、以下の通りです。
〇プライバシー権は、私生活をみだりに公開されない権利です。
〇肖像権は、承諾なしにみだりに顔や姿を撮影されたり公開されたりしない権利です。最高裁判所は京都府学連事件(1969年)で、承諾なしにみだりに容ぼう・姿態を撮影されない自由を13条から認めました。
〇自己決定権は、自分のことを自分で決める権利です。最高裁判所はエホバの証人輸血拒否事件(2000年)で、輸血を伴う医療行為を拒否する患者の意思決定をする権利は尊重されなければならないと判断しました。
第27回問題77
福祉施設・職員の行為に関する次の記述のうち、その適否を考えるに当たり、憲法13条の人格権やプライバシー権が直接の根拠となるものとして、最も適切なものを1つ選びなさい。
1 利用者が信じる宗教の経典の持ち込みを禁止すること
2 利用者が拒否する作業を強要すること
3 利用者の承諾なしに施設の案内パンフレットにその顔写真を掲載すること
4 利用者の承諾なしに施設協力費を預り金から徴収すること
5 利用者が施設批判をしたことを理由に退所を求めること
解説
1→× 経典の持ち込みの禁止は、20条の信教の自由が直接の根拠となります。
2→× 拒否する作業の強要は、18条の意に反する苦役からの自由が直接の根拠となります。
3→○ 承諾なしの顔写真の掲載は、13条から導かれるプライバシー権・肖像権の問題です。
4→× 預り金からの徴収は、29条の財産権が直接の根拠となります。
5→× 施設批判を理由とする退所の要求は、21条の表現の自由が直接の根拠となります。
生存権(25条)と最高裁判例
25条1項は「すべて国民は、健康で文化的な最低限度の生活を営む権利を有する」と定めています。2項は、国に社会福祉、社会保障及び公衆衛生の向上及び増進に努める義務を課しています。
最高裁判所は、生存権をどのような制度で実現するかは、厚生労働大臣や国会の広い裁量に任されているという立場をとっています。裁量の範囲を著しく超えたり、裁量を濫用したりした場合に限り、違憲・違法となります。
第31回問77では、生存権に関する次の4つの判例が選択肢になりました。
①朝日訴訟(1967年)は、生活保護の基準の低さを争った訴訟です。最高裁判所は、原告の死亡により訴訟は終了したと判断しました。生活保護を受ける権利は本人だけに属する権利(一身専属の権利)で、相続人に引き継がれないためです。そのうえで、何が健康で文化的な最低限度の生活かの判断は厚生大臣の裁量に任されているが、裁量権の限界を超えた場合や裁量権を濫用した場合は司法審査の対象となるという意見を付け加えました。
②堀木訴訟(1982年)は、障害福祉年金と児童扶養手当の併給禁止を争った訴訟です。最高裁判所は、25条の具体化は立法府の広い裁量に任されており、併給調整の規定は25条に違反しないと判断しました。
③旭川市国民健康保険条例事件(2006年)で、最高裁判所は、恒常的に生活が困窮している者を保険料の減免の対象としない条例は25条・14条に違反しないと判断しました。
④中嶋訴訟(学資保険訴訟、2004年)で、最高裁判所は、生活保護費を原資とした学資保険の満期保険金について、生活保護法の趣旨にかなう目的と態様で蓄えたものは収入認定の対象とならないと判断しました。
第31回問題77
生存権に係るこれまでの最高裁判例の主旨に関する次の記述のうち、最も適切なものを1つ選びなさい。
(注)判決当時は厚生大臣であったものも厚生労働大臣と表記している。
1 厚生労働大臣の裁量権の範囲を超えて設定された生活保護基準は、司法審査の対象となる。
2 公的年金給付の併給調整規定の創設に対して、立法府の裁量は認められない。
3 恒常的に生活が困窮している状態にある者を国民健康保険料減免の対象としない条例は、違憲である。
4 生活保護費の不服を争う訴訟係争中に、被保護者本人が死亡した場合は、相続人が訴訟を承継できる。
5 生活保護受給中に形成した預貯金は、原資や目的、金額にかかわらず収入認定しなければならない。
解説
1→○ 朝日訴訟で、最高裁判所は、裁量権の限界を超えた場合や濫用した場合は司法審査の対象となると述べました。
2→× 堀木訴訟で、最高裁判所は、併給調整の規定を設けるかどうかは立法府の広い裁量に任されていると判断しました。
3→× 旭川市国民健康保険条例事件で、最高裁判所は、この条例は25条・14条に違反しないと判断しました。
4→× 朝日訴訟で、最高裁判所は、生活保護を受ける権利は一身専属の権利で相続の対象とならず、訴訟は本人の死亡により終了すると判断しました。
5→× 中嶋訴訟で、最高裁判所は、生活保護法の趣旨にかなう目的と態様で蓄えたものは収入認定の対象とならないと判断しました。
社会権の範囲
社会権は、国民が国に対して、生活の保障や制度の整備を求める権利です。国から干渉されない権利である自由権とは、国に求めるものが逆になります。
日本国憲法が定める社会権は、次の4つです。
①生存権(25条)
②教育を受ける権利(26条)
③勤労の権利(27条)
④労働基本権(団結権・団体交渉権・団体行動権、28条)
第36回問77では、社会権を2つ選ぶ問題が出題されました。正答は教育を受ける権利と団体交渉権です。財産権は29条が定める経済的自由権で、肖像権と自己決定権は13条から導かれる権利です。
第36回問題77
次のうち,日本国憲法における社会権として,正しいものを2つ選びなさい。
1 財産権
2 肖像権
3 教育を受ける権利
4 団体交渉権
5 自己決定権
解説
1→× 財産権は、29条が定める経済的自由権です。
2→× 肖像権は、13条の幸福追求権から導かれる権利です。
3→○ 教育を受ける権利は、26条が定める社会権です。
4→○ 団体交渉権は、28条が定める労働基本権の一つで、社会権です。
5→× 自己決定権は、13条の幸福追求権から導かれる権利です。
社会権を具体化する法律が外国人に適用されるかどうかは、法律によって異なります。最高裁判所は塩見訴訟(1989年)で、社会保障の施策で在留外国人をどう扱うかは国の政治的な判断に任されており、限られた財源の下で自国民を優先的に扱うことも許されると判断しました。
〇労働基準法と労働者災害補償保険法は、国籍や在留資格にかかわらず、日本国内で働く外国人労働者に適用されます。
〇国民年金法と国民健康保険法は、国籍要件が撤廃されており、日本国内に住所がある外国人にも適用されます。
〇生活保護法は、1条・2条で対象を「国民」と定めています。外国人のうち永住者や定住者などには、厚生省の通知(1954年)に基づき、行政措置として生活保護法が準用されています。
最高裁判所は2014年、永住外国人は生活保護法に基づく保護の対象とならず、受給権を有しないと判断しました。この判決の内容は、第35回問77の選択肢2で出題されています。
第29回問題78
日本国憲法における社会権を具体化する立法の外国人への適用に関する次の記述のうち、最も適切なものを1つ選びなさい。
1 労働基準法は、就労目的での在留資格を有していない外国人労働者に適用されることはない。
2 労働者災害補償保険法は、就労目的での在留資格を有していない外国人労働者に適用されることはない。
3 生活保護法は、就労目的での在留資格で在留する外国人に適用されることはない。
4 国民年金法は、永住外国人に適用されることはない。
5 国民健康保険法は、永住外国人に適用されることはない。
解説
1→× 労働基準法は、在留資格にかかわらず、日本国内で働く外国人労働者に適用されます。
2→× 労働者災害補償保険法も、在留資格にかかわらず、日本国内で働く外国人労働者に適用されます。
3→○ 生活保護法の対象は「国民」です。行政措置による準用の対象は永住者や定住者などで、就労目的の在留資格で在留する外国人は含まれません。
4→× 国民年金法は国籍要件が撤廃されており、日本国内に住所がある外国人にも適用されます。
5→× 国民健康保険法も国籍要件が撤廃されており、日本国内に住所がある外国人にも適用されます。
基本的人権に関する最高裁の判断
第35回問77では、基本的人権に関する最高裁判所の判断が5つの選択肢で問われました。
〇公務員の争議権について、最高裁判所は全農林警職法事件(1973年)で、公務員の争議行為を一律に禁止する国家公務員法の規定は28条に違反しないと判断しました。
〇永住外国人の生活保護について、最高裁判所は2014年、永住外国人は生活保護法に基づく受給権を有しないと判断しました。
〇生活保護費を原資とした貯蓄について、最高裁判所は中嶋訴訟(2004年)で、生活保護法の趣旨にかなう目的と態様で蓄えたものは収入認定の対象とならないと判断しました。
〇非嫡出子の相続分について、最高裁判所は2013年、嫡出でない子の法定相続分を嫡出子の2分の1とする民法の規定は14条1項に違反すると判断しました。同じ年に民法が改正され、法定相続分は同じになりました。
〇夫婦別姓について、最高裁判所は2015年と2021年に、夫婦が同じ氏を名乗ることを定める民法と戸籍法の規定は憲法に違反しないと判断しました。
第35回問題77
日本国憲法の基本的人権に関する最高裁判所の判断についての次の記述のうち、最も適切なものを1つ選びなさい。
1 公務員には争議権がある。
2 永住外国人には生活保護法に基づく受給権がある。
3 生活保護費を原資とした貯蓄等の保有が認められることはない。
4 嫡出子と嫡出でない子の法定相続分に差を設けてはならない。
5 夫婦別姓を認めない民法や戸籍法の規定は違憲である。
解説
1→× 全農林警職法事件で、最高裁判所は、公務員の争議行為の一律禁止は28条に違反しないと判断しました。
2→× 2014年の判決で、最高裁判所は、永住外国人は生活保護法に基づく受給権を有しないと判断しました。
3→× 中嶋訴訟で、最高裁判所は、生活保護法の趣旨にかなう目的と態様で蓄えたものは収入認定の対象とならないと判断しました。
4→○ 2013年の決定で、最高裁判所は、法定相続分に差を設ける民法の規定は14条1項に違反すると判断しました。
5→× 2015年と2021年に、最高裁判所は、夫婦同氏を定める民法と戸籍法の規定は憲法に違反しないと判断しました。
財産権(29条)
29条は、1項から3項で財産権を次のように定めています。
①1項は、財産権はこれを侵してはならないと定めています。
②2項は、財産権の内容は公共の福祉に適合するように法律で定めると定めています。
③3項は、私有財産は正当な補償の下に公共のために用いることができると定めています。
第33回問77では、財産権の制限と損失補償について、次の内容が問われました。
〇条例による制限について、最高裁判所は奈良県ため池条例事件(1963年)で、条例によって財産権の行使を制限することを認めました。
〇法律による制限について、最高裁判所は森林法共有林事件(1987年)で、立法府の判断が合理的裁量の範囲を超える場合は29条2項に違反し無効となると判断しました。
〇損失補償は、特定の者に特別の犠牲を負わせる場合に必要です。所有権の相互の調整のように、財産権にもともと含まれている制約には補償は必要ありません。
〇補償規定がない場合について、最高裁判所は河川附近地制限令事件(1968年)で、法令に補償規定がなくても、29条3項を直接の根拠として補償を請求できると判断しました。補償規定がないことを理由に、その法令が無効になることはありません。
第33回問題77
財産権の制限に関する次の記述のうち、最も適切なものを1つ選びなさい。
1 財産権は、条例によって制限することができない。
2 法律による財産権の制限は、立法府の判断が合理的裁量の範囲を超えていれば、憲法に違反し無効となる。
3 所有権は、法律によって制限することができない。
4 私有財産を公共のために制限する場合には、所有権の相互の調整に必要な制約によるものであっても、損失を補償しなければならない。
5 法令上の補償規定に基づかない財産権への補償は、憲法に違反し無効となる。
解説
1→× 奈良県ため池条例事件で、最高裁判所は、条例による財産権の制限を認めました。
2→○ 森林法共有林事件で、最高裁判所は、立法府の判断が合理的裁量の範囲を超える場合は29条2項に違反し無効となると判断しました。
3→× 所有権も財産権の一つで、29条2項により法律で制限することができます。
4→× 所有権の相互の調整に必要な制約は、財産権にもともと含まれている制約なので、損失補償は必要ありません。
5→× 河川附近地制限令事件で、最高裁判所は、法令に補償規定がなくても29条3項を直接の根拠として補償を請求できると判断しました。
国民の義務
日本国憲法が国民の義務として明記しているのは、次の3つです。
①子女に普通教育を受けさせる義務(26条2項)
②勤労の義務(27条1項)
③納税の義務(30条)
99条の憲法尊重擁護義務は、天皇又は摂政及び国務大臣、国会議員、裁判官その他の公務員に課されています。国民はこの条文に挙げられていません。投票は、15条が保障する選挙権の行使で、権利です。扶養の義務は、民法877条が定める親族間の義務です。
第30回問題77
次のうち、日本国憲法に国民の義務として明記されているものとして、正しいものを2つ選びなさい。
1 憲法尊重
2 勤労
3 納税
4 投票
5 扶養
解説
1→× 99条の憲法尊重擁護義務は、天皇又は摂政及び国務大臣、国会議員、裁判官その他の公務員に課された義務です。
2→○ 勤労の義務は、27条1項に定められています。
3→○ 納税の義務は、30条に定められています。
4→× 投票は、15条が保障する選挙権の行使で、権利です。
5→× 扶養の義務は、民法877条が定める親族間の義務です。


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