ピンカスとミナハンの4つのシステム
毎年、毎年受講生から聞かれます。「ここ、やらないといけませんか?」と。除外したくなるほどわかりにくい、ということですよね。私自身も、教科書も参考書もブログも読みましたが、どれもしっくりきませんでした。
ところが、この4つのシステムは並列ではないということに気づき、読み方を変えてからは、迷いなくすらすら解けるようになりました。ご心配なく。ピンカスの問題は怖くありません。
この3つを押さえれば解けるようになります。
・「エージェント」「ターゲット」「システム」の意味をインプットする
・契約関係を確認する
・時系列を考える
→他のアプローチはこちら
たくさんあるので、読む順番もご紹介しています。
まず気をつけてほしい「単語の使い方」から
「エージェント」
エージェントは、「代理人」という意味です。旅行の代理人も、保険の代理人も、みなエージェントです。そして代理人は、依頼する側と契約を結んではじめて代理人になります。その契約の相手方が「クライエント」です。
一方、チェンジは「変化」です。つまり「チェンジエージェント」とは、「変化を起こすことを引き受けた代理人」ということになります。もう少し付け足すと、「変化を起こしてより良い状態にすることを契約上約束した代理人」です。
「ターゲット」
ターゲットは、その代理人が、変わってもらう必要があると見定めた相手です。契約の相手方である「クライエント」と、エージェントが「変わる必要があると判断した人」は、同一であることもありますし、同一ではないこともあります。クライエント本人がターゲットになることもあれば、クライエントの家族や職場がターゲットになることもある、ということです。
「システム」
そしてもうひとつ、この「システム」です。ここでのシステムは、システム論から来ている言葉で、制度や仕組みのことではありません。人の集まり(国家試験では人々と表現されています)だと理解してください。
つまりターゲット・システムというのは、「変わる必要があると判断した人たち」という意味になります。
→システム理論とは|開放システム・閉鎖システム・ホメオスタシスを整理
契約からはじまり→目標をたてる→ターゲットをきめる→アクションへ
言葉の意味が決まれば、あとは順番だけです。4点です。
① クライエントがチェンジ・エージェントと契約する
② 何をどう変えるのか、目標を立てる
③ その目標のために、変わってもらう必要がある相手=ターゲットが決まる
④ その目標のために誰と組むかを考えて、今回の顔ぶれ=アクションが決まる
大事なのは、②が入っていること。目標が決まらないと、ターゲットもアクションも決まりません。教科書を読んでも、何の解説を読んでもすっきりしないのは、時間軸に沿った流れを見ずに4つを並べていたからでした。時間軸がわかれば、あとはこの表で理解できると思います。
4つのシステム
補足を2つだけ。
クライエントとターゲットは、同じこともあれば、違うこともあります。本人に変わってもらう必要があるなら同じですし、変わってもらう相手が職場や家族や制度なら、まったく別になります。
チェンジ・エージェントとアクションは、似て見えますが違います。契約を結んで責任を負っているのがチェンジ・エージェントです。契約の張本人ですね。その人が今回声をかけて、力を貸してほしいとお願いしているのがアクション・システムです。児童相談所やハローワークなど、所属機関の外に広がっていくことも多くあります。
国家試験では、4つのシステムについて次のように出題されました。
○「ターゲット・システムは、変革努力の目標達成のためにソーシャルワーカーが影響を及ぼす必要のある人々を指す。」(第31回問題100)
○ターゲットシステムに該当するものとして「目標を達成するために変化を必要とする人々」(第38回問題76)
×「ピンカス(Pincus, A.)とミナハン(Minahan, A.)の実践モデルにおけるターゲットシステムは,目標達成のために,ソーシャルワーカーと協力していく人々を指す。」(第36回問題98)→これはターゲットシステムではなく、アクションシステムのことです。
×「チェンジ・エージェント・システムは、契約の下、ソーシャルワーカーの努力によって利益を受ける人々を指す。」(第31回問題100)→これはチェンジ・エージェント・システムではなく、クライエント・システムのことです。
×ターゲットシステムに該当するものとして「機能不全状態にある社会制度や人々」(第38回問題76)→ターゲットを決めるのは、相手が機能不全かどうかではなく、目標のために変化が必要かどうかです。
×「ジャーメイン(Germain, C.)は、クライエントの環境は、アクション・システムなど、複数のシステムから構成されると説いた。」(第33回問題98)→これはジャーメインではなく、ピンカスとミナハンのことです。
過去問を解いてみましょう
第31回問題100
ピンカス(Pincus, A.)らによる「4つの基本的なシステム」の中の、ターゲット・システムとチェンジ・エージェント・システムに関する次の記述のうち、最も適切なものを1つ選びなさい。
1 ターゲット・システムは、役割を遂行するソーシャルワーカーを指す。
2 ターゲット・システムは、ソーシャルワーカーが所属している機関を指す。
3 ターゲット・システムは、変革努力の目標達成のためにソーシャルワーカーが影響を及ぼす必要のある人々を指す。
4 チェンジ・エージェント・システムは、契約の下、ソーシャルワーカーの努力によって利益を受ける人々を指す。
5 チェンジ・エージェント・システムは、目標達成のために、ソーシャルワーカーと協力していく人々を指す。
解説
1→×役割を遂行するソーシャルワーカーは、ターゲット・システムではなく、チェンジ・エージェント・システムです。
2→×ソーシャルワーカーが所属している機関も、ターゲット・システムではなく、チェンジ・エージェント・システムです。
3→○ターゲット・システムの説明です。
4→×利益を受ける人々は、チェンジ・エージェント・システムではなく、クライエント・システムです。
5→×協力していく人々は、チェンジ・エージェント・システムではなく、アクション・システムです。
解けるわ、となっていませんか。
第38回問題76
次のうち,ピンカス(Pincus, A.)とミナハン(Minahan, A.)の提示した「ターゲットシステム」に該当するものとして,最も適切なものを 1 つ選びなさい。
1 変化をもたらすために働く人や機関
2 ソーシャルワークの支援や利益を享受する人々
3 目標達成に向けて協働する人々
4 機能不全状態にある社会制度や人々
5 目標を達成するために変化を必要とする人々
解説
1→× チェンジ・エージェント・システムです。
2→× クライエント・システムです。
3→× アクション・システムです。
4→× 4つのシステムのどれでもありません。
5→○ 記述のとおりです。
4について、補足しておきます。
4「機能不全状態にある」と書かれると、いかにもターゲットらしく見えます。頭の中で機能不全、問題あり、うまくいっていない、変えなければいけない、という図ができあがっていませんか。
でも、ターゲットの決め手はそこではありません。「目標を達成するために、変化を必要とするかどうか」です。
たとえば、Aさんの復職が目標だとします。Aさんの勤務先が、法令も守り、他の社員にとっては何の問題もない、きちんと機能している会社だったとしても、Aさんの復職のために勤務時間の調整をしてもらう必要があるなら、その会社はターゲットです。機能不全ではありません。
ターゲットを決めるのは、相手の状態ではなく、こちらの目標なのです。
第36回問題98
ソーシャルワーク実践におけるシステム理論の考え方に関する次の記述のうち,最も適切なものを 1 つ選びなさい。
1 ピンカス(Pincus, A.)とミナハン(Minahan, A.)の実践モデルにおけるターゲットシステムは,目標達成のために,ソーシャルワーカーと協力していく人々を指す。
2 開放システムの変容の最終状態は,初期条件によって一義的に決定される。
3 システムには,他の要素から正負のフィードバックを受けることで,自己を変化・維持させようとする仕組みがある。
4 クライエントの生活上の問題に関し,問題を生じさせている原因と結果の因果関係に着目する。
5 家族の問題に対して,課題を個々の家族員の次元で捉え,個々人に焦点を当てたサービスを提供する。
解説
1→×これはターゲットシステムではなく、アクションシステムのことです。ターゲットシステムは、目標を達成するために変化を必要とする人々です。
2→×初期条件で結末まで決まるのは、開放システムではなく閉鎖システムです。
3→○フィードバックの説明です。
4→×原因と結果を一本の線で結ぶのではなく、循環していると捉えます。
5→×家族の問題は、個々の家族員ではなく、家族全体を一つのシステムとして捉えます。
第33回問題98
次の記述のうち、人と環境との関係に関するソーシャルワーク理論として、最も適切なものを1つ選びなさい。
1 リッチモンド(Richmond, M.)は、「人」、「状況」、「人と状況の相互作用」の三重の相互関連性を説いた。
2 ピンカス(Pincus, A.)とミナハン(Minahan, A.)は、生態学的視座に立ち、人が環境の中で生活し、社会的にも機能していると説いた。
3 ホリス(Hollis, F.)は、パーソナリティの変容を目指し、人と環境との間を個別に意識的に調整すると説いた。
4 バートレット(Bartlett, H.)は、人々が試みる対処と環境からの要求との交換や均衡を、社会生活機能という概念で説いた。
5 ジャーメイン(Germain, C.)は、クライエントの環境は、アクション・システムなど、複数のシステムから構成されると説いた。
解説
1→×「人」「状況」「人と状況の相互作用」の三重の相互関連性を説いたのは、ホリスです。
2→×生態学的視座に立ったのは、ジャーメインです。
3→×人と環境との間を個別に意識的に調整すると説いたのは、リッチモンドです。
4→○バートレットの社会生活機能の説明です。
5→×アクション・システムなど複数のシステムを示したのは、ピンカスとミナハンです。
第35回問題97
事例を読んで、ピンカス(Pincus, A.)とミナハン(Minahan, A.)の「4つの基本的なシステム」(チェンジ・エージェント・システム、クライエント・システム、ターゲット・システム、アクション・システム)のうち、チェンジ・エージェント・システムが抱える課題として、最も適切なものを1つ選びなさい。
〔事 例〕
脊髄小脳変性症で入院したHさん(45歳、男性)が退院準備のために医療ソーシャルワーカーに相談に来た。現在、下肢の筋力低下が進んでおり、長い時間の歩行は困難で車いすを利用している。Hさんは一戸建ての自宅で妻(42歳、会社員)と二人暮らしであり、今後は、介護保険サービスを利用して自宅に退院することを検討している。また、Hさんは入院後休職中であるが、自宅で療養した後に復職を希望している。
1 Hさんの退院後の自宅における介護サービス
2 Hさんが復職した場合の職場での勤務時間
3 Hさん夫妻に対して、退院後に必要となる妻への支援
4 Hさんの希望に基づき、近隣の利用可能な社会資源
5 Hさんの今後の療養に関わる院内スタッフの情報共有
解説
1→×退院後の介護サービスは、クライエント(Hさん)の生活に関わる課題です。
2→×職場の勤務時間は、変わってもらう必要がある相手(ターゲット)である職場に関わる課題です。
3→×妻への支援は、クライエント・システム(Hさん夫妻)に関わる課題です。
4→×近隣の社会資源は、力を貸してくれる人々(アクション・システム)に関わることです。
5→○医療ソーシャルワーカーと所属機関(病院)がチェンジ・エージェント・システムです。院内スタッフの情報共有は、病院の中の課題です。
4つのシステムは並列ではなく順番
最後に、もう一度。
契約を結び(クライエントシステム×チェンジエージェントシステム)、目標を立て、変わってもらう相手を見定め(ターゲットシステム)、一緒に動く顔ぶれ(アクションシステム)を決める。
4つは並列に並んだ分類ではなく、順番に決まっていくものだったということがよくわかると思います。
ほかのアプローチと、読む順番についての記事はこちら
→ソーシャルワークのアプローチ 記事一覧|読む順番と提唱者・人名


コメント