まず「生態学」から
→他のアプローチはこちら
たくさんあるので、読む順番もご紹介しています。
「生態学的アプローチ」と聞いて、高校の生物の授業を思い出した方もいると思います。まずは、その生態学から見ていきましょう。
生態学とは、生き物と、それを取り巻く環境との関係を研究する学問です。たとえば、ある池とその中で生活するメダカをイメージしてください。生態学は、その池のメダカを1匹だけを見るのではなく、水草、水温、日光、他の生き物が、どう関わり合ってその池が成り立っているのかを、丸ごと見ようとします。
この見方を人間に当てはめたのが、ジャーメインのエコロジカルアプローチです。人も、池のメダカと同じように、環境の中で生きています。家族、職場、地域、制度、経済状況。その人一人だけを取り出して観察しても、その人のことはわかりません。人と環境のつながりを丸ごと見る、それがエコロジカルアプローチの出発点です。
人間と環境の「交互作用」
ジャーメインは、人と環境の関係を「交互作用」という言葉で表しました。人は環境から影響を受け、環境もまた人から影響を受ける。お互いに影響し合いながら生きている、ということです。
よく似た言葉に、ホリスの心理社会的アプローチで使われる「相互作用」があります。相互作用は、独立した2つのものがお互いに影響を与え合うことを指します。交互作用は、人と環境が影響し合いながら両方とも変わっていき、切り離して考えられない関係を指します。交互作用はジャーメインの言葉だと意識しておきましょう。
→心理社会的アプローチ(ホリス)|「状況の中の人」とは?3つの相互関連性
空間と時間が、人をつくる
ジャーメインには、人と環境の交互作用を考えるときの特徴的な視点があります。それが「空間」と「時間」です。人がどんな空間で、どんな時間を生きてきたか。それがその人の価値観やライフスタイルをつくると考えます。
まず、空間について。衛生状態のよくない環境で長く暮らしてきた人は、衛生に対する優先順位が自然と低くなっていることがあります。だらしないのではありません。そういう環境で生きてきたから、そうなっているのです。
次に、時間について。日本の電車は1分2分の遅れを謝罪しますが、海外では電車の遅れは日常茶飯事だとよく聞きますね。時間に正確であることが当たり前とされる社会で育てば、遅刻はだらしないものに映ります。時間の感覚は、その人が生きてきた文化や社会によって違ってくるのです。
ですから、その人を理解するには、その人がどんな環境で生きてきたのかを見なければなりません。価値観だけを取り出して正しい・間違っていると判断するのではなく、その価値観がどんな環境から生まれたのかを丸ごと見る。ここにも生態学の発想が流れています。
人にも、環境にも働きかける
では、エコロジカルアプローチは、実際にどう支援するのでしょうか。
人に働きかけることもあれば、環境に働きかけることもあります。その人が環境に対処できるよう力をつけるのを手伝うこともあれば、その人が生きやすいように環境の側を変えるよう働きかけることもあります。周りの人の理解を得たり、制度につないだり、人と環境の両方に働きかけていきます。
適応
エコロジカルアプローチは、ジャーメインとギッターマンの「ライフモデル(生活モデル)」とも呼ばれます。実際に、国家試験ではこの呼び方で、適応が問われました。
適応というと、人が環境に合わせて自分を変える(自分で適応する)ことだと思いがちですが、ライフモデルでの適応は違います。人が環境に働きかけて環境を変え、その変わった環境に自分も合わせていく。人も変わるし、環境も変わる。この双方向であることが、適応です。
人が環境に合わせるだけでも、環境を人に合わせるだけでもなく、どちらも動いていく過程のことを、適応と呼んでいます。
国家試験では、エコロジカルアプローチについて次のように出題されました。
○「空間という場や時間の流れが、人々の価値観やライフスタイルに影響すると捉える。」(第34回問題99)
○ライフモデルの適応として「個人と環境が相互に影響し合うことで,バランスのとれた支援関係を築く継続的なプロセスである。」「個人はニーズに合わせるために環境を変え,自らもその変化に適合させる。」(第38回問題77)
×ライフモデルの適応として「環境を変えることにより,個人の特性やニーズに合致する。」(第38回問題77)→環境だけを変えるのではなく、人も環境も変わっていく双方向の過程が適応です。
×「ベーム(Boehm, W.)は、人間と環境の交互作用を基本視点とした生態学的アプローチを展開した。」(第32回問題93)→これはベームではなく、ジャーメインのことです。
×「ジャーメイン(Germain, C.)は、クライエントの環境は、アクション・システムなど、複数のシステムから構成されると説いた。」(第33回問題98)→これはジャーメインではなく、ピンカスとミナハンのことです。
×「ピンカス(Pincus, A.)とミナハン(Minahan, A.)は、生態学的視座に立ち、人が環境の中で生活し、社会的にも機能していると説いた。」(第33回問題98)→生態学的視座に立ったのは、ピンカスとミナハンではなく、ジャーメインです。
×ジャーメインのエコロジカルアプローチの特徴として「問題の原因を追求するよりもクライエントの解決イメージを重視する。」(第34回問題99)→これはエコロジカルアプローチではなく、解決志向アプローチのことです。
ジャーメインとギッターマンの生活モデルを、治療モデル・ストレングスモデルと比べた記事はこちら
→治療モデル・生活モデル・ストレングスモデルの違い|ソーシャルワークの実践モデルとバイオ・サイコ・ソーシャルモデル
過去問を解いてみましょう
第34回問題99
次の記述のうち、ジャーメイン(Germain, C.)によるエコロジカルアプローチの特徴として、最も適切なものを1つ選びなさい。
1 空間という場や時間の流れが、人々の価値観やライフスタイルに影響すると捉える。
2 モデルとなる他者の観察やロールプレイを用いる。
3 クライエントのパーソナリティの治療改良とその原因となる社会環境の改善を目的とする。
4 問題の原因を追求するよりもクライエントの解決イメージを重視する。
5 認知のゆがみを改善することで、感情や行動を変化させ、問題解決を図る。
解説
1→○空間と時間が、人の価値観やライフスタイルをつくると考えます。
2→×モデリングやロールプレイを用いるのは、エコロジカルアプローチではなく、行動変容アプローチです。
3→×パーソナリティの治療改良を目指すのは、エコロジカルアプローチではなく、診断主義の流れをくむアプローチです。
4→×原因より解決のイメージを重視するのは、エコロジカルアプローチではなく、解決志向アプローチです。
5→×認知のゆがみを改善するのは、エコロジカルアプローチではなく、認知行動アプローチです。
第38回問題77
次の記述のうち,ジャーメイン(Germain, C.)とギッターマン(Gitterman, A.)が提唱したライフモデルにおける「適応」(adaptation)に関するものとして,適切なものを 2 つ選びなさい。
1 環境を変えることにより,個人の特性やニーズに合致する。
2 個人の能力と環境条件が拮抗することによって,均衡が保たれる。
3 個人と環境が相互に影響し合うことで,バランスのとれた支援関係を築く継続的なプロセスである。
4 人々と環境との関係の中で,個人が能力を発揮することによって適応が確保される。
5 個人はニーズに合わせるために環境を変え,自らもその変化に適合させる。
解説
1→×環境を変えるだけでは、人の側の変化がありません。ライフモデルの適応は、人も環境も変わる双方向の過程です。
2→×拮抗して均衡が保たれるという、止まった状態の説明です。適応は、互いに影響し合いながら続いていく過程です。
3→○人と環境が相互に影響し合う、継続的なプロセスです。
4→×個人が能力を発揮するだけでは、環境の側の変化がありません。
5→○環境を変え、自分もその変化に合わせていく、双方向の過程です。
第32回問題93
ソーシャルワーク実践理論を発展させた人物に関する次の記述のうち、正しいものを1つ選びなさい。
1 ベーム(Boehm, W.)は、人間と環境の交互作用を基本視点とした生態学的アプローチを展開した。
2 ジャーメイン(Germain, C.)は、ソーシャルワークを本質的な観点から検討し、ソーシャルワークの活動を三つの機能に分類して定義化を試みた。
3 シュワルツ(Schwartz, W.)は、個人と社会の関係は共生的な相互依存関係であるとし、ソーシャルワーカーの媒介機能を重視する相互作用モデルを展開した。
4 ゴールドシュタイン(Goldstein, H.)は、価値の体系、知識の体系および多様な介入方法の3要素に基づくソーシャルワーク実践の共通基盤を提唱した。
5 バートレット(Bartlett, H.)は、システム理論を指向した一元的アプローチを展開し、後に認知的-人間性尊重アプローチを展開した。
解説
1→×人間と環境の交互作用を基本視点とした生態学的アプローチを展開したのは、ベームではなくジャーメインです。
2→×ソーシャルワークの活動を三つの機能に分類して定義化を試みたのは、ジャーメインではなくベームです。
3→○シュワルツの相互作用モデル(媒介機能)の説明です。
4→×価値・知識・介入の三つの要素で実践の共通基盤を示したのは、ゴールドシュタインではなくバートレットです。
5→×一元的アプローチを展開し、のちに認知的-人間性尊重アプローチを展開したのは、バートレットではなくゴールドシュタインです。
第33回問題98
次の記述のうち、人と環境との関係に関するソーシャルワーク理論として、最も適切なものを1つ選びなさい。
1 リッチモンド(Richmond, M.)は、「人」、「状況」、「人と状況の相互作用」の三重の相互関連性を説いた。
2 ピンカス(Pincus, A.)とミナハン(Minahan, A.)は、生態学的視座に立ち、人が環境の中で生活し、社会的にも機能していると説いた。
3 ホリス(Hollis, F.)は、パーソナリティの変容を目指し、人と環境との間を個別に意識的に調整すると説いた。
4 バートレット(Bartlett, H.)は、人々が試みる対処と環境からの要求との交換や均衡を、社会生活機能という概念で説いた。
5 ジャーメイン(Germain, C.)は、クライエントの環境は、アクション・システムなど、複数のシステムから構成されると説いた。
解説
1→×「人」「状況」「人と状況の相互作用」の三重の相互関連性を説いたのは、ホリスです。
2→×生態学的視座に立ったのは、ジャーメインです。
3→×人と環境との間を個別に意識的に調整すると説いたのは、リッチモンドです。
4→○バートレットの社会生活機能の説明です。
5→×アクション・システムなど複数のシステムを示したのは、ピンカスとミナハンです。
第31回問題99
事例を読んで、外国籍住民を支援する団体のKソーシャルワーカー(社会福祉士)が、エコロジカルアプローチの視点から今後行う取組として、より適切なものを2つ選びなさい。
〔事 例〕
P国籍のLさん(30歳、女性)は半年前に来日した。Mさんなど一部の日本人住民に挨拶をしても無視されることが度々あり、Lさんは疎外感を覚えている。LさんはMさんなど近隣の日本人住民と交流しながら住み続けたいと考えているが、Lさん自身はMさんらに何も伝えることができない。このためLさんは、Kソーシャルワーカーに相談した。
1 Lさんの了解を得て、Lさんに対する思いについてMさんらに尋ねる。
2 この地区の民生委員に問題解決・再発防止の仕組み作りを任せる。
3 日本人住民との良好な関係作りのためにLさんができることを、一緒に考える。
4 疎外感緩和のため、在日P国人団体の集まりに参加するように助言する。
5 Lさんに、Mさんらに対する言動を思い返してもらい、もし不適切な言動をしたことがあればやめるように助言する。
解説
1→○環境(Mさんら近隣の住民)への働きかけです。
2→×民生委員に任せきりで、Kソーシャルワーカー自身は人にも環境にも働きかけていません。
3→○人(Lさん)への働きかけです。
4→×Lさんを今の環境から離す対応で、Lさんと近隣住民の関係には働きかけていません。
5→×Lさん一人を変えようとしていて、環境の側を見ていません。
すっきり整理
ほかのアプローチと、読む順番についての記事はこちら
→ソーシャルワークのアプローチ 記事一覧|読む順番と提唱者・人名


コメント