2023年(令和5年)6月、認知症に関する法律として初めて「共生社会の実現を推進するための認知症基本法」が成立しました。全37条からなる法律で、認知症の人が尊厳を保持しながら暮らせる社会を目指すための基本理念や、国・地方公共団体の責務、計画の策定などを定めています。まだ本格的に内容が出題されたことがありませんので、関連する過去問が1問しかありません。各項目にあわせて演習問題を用意していますので、知識の定着に役立ててください。
目的(第1条)
この法律は、認知症の人が尊厳を保持しつつ希望を持って暮らすことができるよう、認知症施策を総合的かつ計画的に推進することを目的としています。あわせて、認知症の人を含めた国民一人一人が、その個性と能力を十分に発揮し、相互に人格と個性を尊重しつつ支え合いながら共生する活力ある社会、すなわち「共生社会」の実現を推進することも、目的として掲げられています。
基本理念(第3条)
認知症施策は、次の7つを基本理念として行われることとされています。
①すべての認知症の人が、基本的人権を享有する個人として、自らの意思によって日常生活及び社会生活を営むことができるようにすること。
②国民が、共生社会の実現を推進するために必要な認知症に関する正しい知識及び認知症の人に関する正しい理解を深めることができるようにすること。
③認知症の人にとって日常生活又は社会生活を営む上で障壁となるものを除去することにより、認知症の人が社会の対等な構成員として、意見を表明する機会及び社会のあらゆる分野における活動に参画する機会を確保すること。
④認知症の人にとって身近な地域において、良質かつ適切な保健医療サービス及び福祉サービスが切れ目なく提供されること。
⑤認知症の人の家族等に対する支援が適切に行われることにより、認知症の人及び家族等が地域において安心して日常生活を営むことができるようにすること。
⑥共生社会の実現に資する研究等を推進し、その成果を広く国民が享受できる環境を整備すること。
⑦教育、地域づくり、雇用、保健、医療、福祉その他の各関連分野における総合的な取組として行うこと。
演習問題
1 国民は、認知症に関する正しい知識及び理解を深めることができるようにすることが定められている
→〇 上記②
2 認知症の人にとっての障壁の除去については定められていない
→× 上記③
3 認知症本人の支援については定められているが、家族の支援については明記されていない
→× 上記⑤
認知症の日・認知症月間(第9条)
国民の間に広く認知症についての関心と理解を深めるため、認知症の日及び認知症月間が設けられています。
認知症の日は9月21日
認知症月間は9月1日から9月30日
国及び地方公共団体は、認知症の日にふさわしい事業を実施するよう努めるとともに、認知症月間にふさわしい行事が実施されるよう奨励しなければなりません。
認知症施策推進基本計画(第11条)
政府は、認知症施策の総合的かつ計画的な推進を図るため、認知症施策推進基本計画を策定しなければなりません。国の基本計画の策定は義務です。都道府県及び市町村は、国の基本計画を基本として、都道府県計画・市町村計画を策定するよう努めることとされており、こちらは努力義務です。
演習問題
政府は、認知症推進基本計画を策定しなければならない
→〇
都道府県・市町村は、事情にあわせて認知症計画を策定しなければならない
→×自治体の計画は努力義務である
認知症施策推進本部・関係者会議
認知症施策を総合的かつ計画的に推進するため、
①内閣に認知症施策推進本部が置かれています。
②基本計画の案を作成する際には、認知症施策推進関係者会議の意見を聴くこととされています。
③関係者会議の委員は20人以内で、認知症の人及びその家族、有識者、関係団体の代表者等のうちから、内閣総理大臣が任命します。
この流れ、見覚えありませんか。当事者や家族を委員に含める構造は、障害者基本法に基づく障害者政策委員会と共通しています。条文もほぼ同じです(障害者政策委員会という名称で委員が30人以内となっていますが)。
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演習問題
認知症基本法に基づき、厚生労働省に認知症施策推進本部が置かれる
→×内閣です
認知症推進関係者会議の委員には認知症の人及びその家族が含まれる
→〇上記③のとおり
過去問を解いてみましょう
第37回・問86 日本の高齢者福祉制度の発展過程に関する次の記述のうち、正しいものを1つ選びなさい。
1 1963年(昭和38年)の老人福祉法の制定によって、デイサービスやショートステイを含む在宅福祉サービスが法定化された。
2 1982年(昭和57年)の老人保健法の制定によって、市町村及び都道府県における老人保健福祉計画の策定義務が法定化された。
3 1997年(平成9年)の介護保険法の制定によって、介護保険の保険者は市町村及び特別区であることが法定化され、併せて広域連合や一部事務組合も保険者になることができるようになった。
4 2005年(平成17年)の「高齢者虐待防止法」の制定によって、使用者(高齢者を雇用する事業主)による虐待が高齢者虐待の定義の一つとして、法定化された。
5 2023年(令和5年)の「認知症基本法」の制定によって、国民に対して、認知症の人を不当に差別する行為を禁止することが法定化された。
1→× 在宅福祉サービスの法定化は1990年の福祉八法改正
2→× 老人保健福祉計画の策定義務化も1990年の福祉八法改正
3→○
4→× 高齢者虐待防止法の虐待の定義は養護者によるものと養介護施設従事者等によるものが対象で、使用者による虐待を定めているのは障害者虐待防止法
5→× 認知症基本法に不当な差別行為を禁止する規定はない
認知症基本法は、共生社会の実現を推進するための理念や計画の策定を定めた法律であり、不当な差別的取扱いの禁止を明記した規定はありません。もんだ文の「不当な差別・・・」の文言は、障害者差別解消法で用いられている表現です。
障害者差別解消法
第七条 行政機関等は、その事務又は事業を行うに当たり、障害を理由として障害者でない者と不当な差別的取扱いをすることにより、障害者の権利利益を侵害してはならない。
第八条 事業者は、その事業を行うに当たり、障害を理由として障害者でない者と不当な差別的取扱いをすることにより、障害者の権利利益を侵害してはならない。
なお前半の選択肢1と2は福祉八法改正に関する問題です。よく出題される分野です。こちらの記事もご参照ください。



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