福祉国家研究の二つの問い
福祉国家研究には、「福祉国家はなぜ発展するのか」という問いと、「福祉国家にはタイプの違いがあるのか」という問いの二つがありました。
ウィレンスキーは、経済が成長し高齢化が進めば、どの国も似たような規模の福祉国家に収斂していく(近づいていく)と考え、収斂理論を唱えました。イデオロギーや政治体制の違いよりも、経済水準が福祉国家の姿を決めるという主張です。
しかし実際には、先進国の社会保障のかたちは収斂せず、むしろ多様化していきました。ティトマスは福祉国家をタイプに分けて捉える研究の先駆けとなり、エスピン=アンデルセンはその発想を受け継いで、福祉レジーム論として理論的に完成させました。
この記事では、ウィレンスキー、ティトマス、エスピン=アンデルセンの3人を順に確認します。
ウィレンスキー|収斂理論の代表的論者
ウィレンスキーは、各国の社会保障支出の差を説明する要因として、経済水準(経済成長の度合い)が最も重要であり、高齢化も大きく影響する一方、イデオロギーや政治体制の違いはさほど重要ではないと論じました。
豊かになればどの国も似たような福祉国家になっていくという考え方であり、ウィレンスキーは収斂理論の代表的論者と位置づけられています。
ティトマス|タイプ分け研究の先駆者
ティトマスは、収斂理論とは異なる視点から、福祉国家を国家の役割の大きさによって分類しました。ティトマスの分類は、残余的(救貧的)モデル、産業的業績達成モデル、制度的再分配モデルの三つです。
・残余的(救貧的)モデルは、家族や市場がうまく機能しなかったときにだけ、国家が一時的に福祉の責任を引き受けるモデルです。
・産業的業績達成モデルは、社会福祉を経済に従属するものとみなし、ニーズを働きぶりや業績、生産性に応じて満たすモデルです。
・制度的再分配モデルは、市場の外で必要に応じてサービスを提供し、社会のあらゆる分配領域で国家が福祉の責任を広く担うモデルです。
残余的(救貧的)モデルは最も市場の役割が大きく、制度的再分配モデルは最も公的な介入が大きいモデルです。一般に、アメリカなどが残余的(救貧的)モデル、ドイツやフランスが産業的業績達成モデル、北欧などが制度的再分配モデルに近いと説明されます。
ティトマスにはもう一つ重要な主張があります。選別的なサービス(所得などで対象者を絞るサービス)がスティグマ(恥の烙印)を伴わずに社会権として機能するためには、普遍主義的なサービスという土台が必要だという考え方です。ティトマスは選別主義そのものを否定したのではなく、普遍主義の中に位置づけられた選別主義であれば機能するという立場をとりました。
エスピン=アンデルセン|福祉レジーム論
エスピン=アンデルセンは、ティトマスらのタイプ分けの発想を受け継ぎ、脱商品化という指標を用いて、福祉国家を三つの福祉レジームに分類しました。
脱商品化とは、労働者が働かなくても(労働力を商品として市場に出さなくても)、どれだけ人間らしい生活を維持できるかという度合いを表す概念です。エスピン=アンデルセンは、脱商品化に加えて、社会保障の制度が職業や階層による違いをどれだけ残しているかを表す階層化も指標にしました。
三つの福祉レジームは、自由主義レジーム、保守主義レジーム、社会民主主義レジームです。
・自由主義レジームは、市場の役割が大きく、脱商品化の程度が低いレジームで、アメリカなどが該当します。
・保守主義レジームは、職業ごとに分かれた社会保険が中心で、家族の役割も重視されるレジームで、ドイツやフランスなどが該当します。
・社会民主主義レジームは、国家の役割が大きく、脱商品化の程度が高いレジームで、北欧諸国などが該当します。
この理論は後に、家族内の無償のケア労働(女性が担うことが多い家事・育児・介護)への視点が薄いという批判を受けました。エスピン=アンデルセンは後の著作で、家族に頼らずケアを社会化できる度合いを表す脱家族化という概念を取り入れています。
エスピン=アンデルセンは、ウィレンスキーの「福祉国家は収斂する」という主張を退け、福祉国家は収斂せず多様なタイプに分かれることを理論的に示しました。
原理と政策で出題される思想家についての記事はこちら
ほかの科目も含めた人名についての記事はこちら


コメント