自殺対策基本法の全体像
自殺対策基本法は、2006年(平成18年)に議員立法で制定されました。それまで個人の問題とされてきた自殺を社会の問題として捉え、国や地方公共団体が対策に取り組むことを定めた法律です。
2016年(平成28年)の改正で、都道府県と市町村に自殺対策計画の策定が義務付けられました。あわせて、自殺総合対策会議が内閣府から厚生労働省に移され、所管が厚生労働省になりました。
→自殺対策計画の義務付けについては、すでに出題されています。
2025年(令和7年)には、こどもの自殺対策を強化する改正が行われました。2024年の小中高生の自殺者が529人と過去最多になったことを受けた改正で、2025年12月と2026年4月の2段階で施行されています。
→こちらの改正点についてはまだ出題されていません。
この記事では、法律を読むときに確認する5つの軸に沿って、自殺対策基本法を整理します。
①目的と基本理念
②定義
③国・地方公共団体等の責務と計画
④機関・会議
⑤所管する省庁
法律を読むポイントはこちら
→法律が多すぎて覚えられない?|福祉の法律を見るポイントはどこか
目的と基本理念
目的
第1条は、誰も自殺に追い込まれることのない社会の実現を目指すことを掲げています。そのうえで、自殺対策を総合的に推進して自殺の防止を図り、あわせて自殺者の親族等の支援の充実を図ることを目的としています。法律の支援の対象には、自殺のおそれがある者だけでなく、自殺者の親族等も含まれます。
基本理念
第2条の基本理念は7つの項からなります。
①自殺対策は、生きることの包括的な支援として実施します(第1項)。
②自殺を個人的な問題としてのみ捉えず、背景にある社会的な要因を踏まえ、社会的な取組として推進します(第2項)。
③単に精神保健的観点からのみならず、自殺の実態に即して実施します(第3項)。
④事前予防、自殺発生の危機への対応、自殺が発生した後や未遂に終わった後の事後対応の各段階に応じた施策として実施します(第4項)。
⑤保健、医療、福祉、教育、労働その他の関連施策と有機的に連携し、総合的に実施します(第5項)。
⑥デジタル社会の進展を踏まえ、インターネット等で流通する自殺に関連する情報の影響に配慮します(第6項)。
⑦こどもに係る自殺対策は、社会全体で取り組むことを基本として行います(第7項)。
①は2016年の改正で、⑥と⑦は2025年の改正で加えられました。自殺対策を生きることへの包括的な支援として捉えているとする選択肢と、精神保健的観点からの自殺対策の強化が優先的課題とされているとする選択肢は、第29回問題28で出題。
定義
自殺対策基本法には、定義の条文がありません。「自殺」「自殺未遂者」「自殺者の親族等」という語は、定義されないまま条文の中で使われています。
多くの法律は、最初の数条で対象者を定義します。障害者基本法の障害者、生活困窮者自立支援法の生活困窮者がその例です。自殺対策基本法は対象者を限定せず、全ての者を対象にした法律になっています。
国・地方公共団体等の責務
自殺対策基本法は、国、地方公共団体、事業主、学校、国民の5つの主体に責務を定めています。
①国は、自殺対策を総合的に策定し、実施する責務を有します(第3条第1項)。こどもに係る自殺対策は、内閣総理大臣、文部科学大臣、厚生労働大臣が連携して推進します(第3条第2項)。
②地方公共団体は、国と協力しつつ、地域の状況に応じた施策を策定し、実施する責務を有します(第3条の2第1項)。国は、地方公共団体に必要な助言その他の援助を行います(第3条の2第2項)。
③事業主は、国と地方公共団体の自殺対策に協力し、雇用する労働者の心の健康の保持のための措置を講ずるよう努めます(第4条)。
④学校は、関係者と連携を図りつつ、こどもの自殺の防止等に取り組むよう努めます(第5条)。
⑤国民は、生きることの包括的な支援としての自殺対策の重要性に関する理解と関心を深めるよう努めます(第6条第1項)。
国と地方公共団体は「責務を有する」、事業主・学校・国民は「努めるものとする」と書かれています。事業主・学校・国民の3つは努力義務です。学校の責務は、2025年の改正で新しく設けられました。
国が地方公共団体の自殺対策に関与してはならないとする選択肢は、第29回問題28で出題。
自殺予防週間と自殺対策強化月間
国民の理解と関心を深めるため、法律は自殺予防週間と自殺対策強化月間を設けています(第7条)。
①自殺予防週間は、9月10日から9月16日までです。国と地方公共団体は、啓発活動を広く展開します。
②自殺対策強化月間は、3月です。国と地方公共団体は、自殺対策を集中的に展開し、相談事業等を実施します。
年次報告
政府は、毎年、国会に、我が国における自殺の概況と講じた自殺対策に関する報告書を提出しなければなりません(第11条)。この報告書が、自殺対策白書として公表されています。
自殺総合対策大綱と自殺対策計画
自殺総合対策大綱
国は自殺総合対策大綱を策定します(一般的には国は基本方針や基本計画を策定しますが、この法律では政府が大綱を定めることになっています)。
〇政府は、政府が推進すべき自殺対策の指針として、自殺総合対策大綱を定めなければなりません(第12条)。大綱の案は自殺総合対策会議が作成し、政府が閣議で決定します。現在の大綱は、2022年(令和4年)10月に閣議決定された第4次の大綱です。
〇大綱は、悩んでいる者に気づき、声をかけ、話を聞いて、必要な支援につなげ、見守る役割を担う人材として、ゲートキーパーの養成を掲げています。
→だから、ゲートキーパーが出題されるのですね。
ゲートキーパーは専門職に限られず、地域の住民も担います。大綱の取組により養成される人材を問う問題は、精神保健福祉士の第26回問題65で出題。ゲートキーパーを弁護士、司法書士、薬剤師などの専門職に限るとした選択肢は、第27回問題37で出題。
都道府県自殺対策計画と市町村自殺対策計画
都道府県と市町村は、どちらも自殺対策計画を定めることが義務付けられています。
①都道府県は、自殺総合対策大綱と地域の実情を勘案して、都道府県自殺対策計画を定めます(第13条第1項)。
②市町村は、自殺総合対策大綱と都道府県自殺対策計画と地域の実情を勘案して、市町村自殺対策計画を定めます(第13条第2項)。
2016年の改正で義務化されるまで、自殺対策計画の規定はありませんでした。法律で市町村に策定が義務付けられている計画として市町村自殺対策計画を選ぶ問題は、第35回問題47で出題。
自殺対策基本法には、計画の実績について評価を行う規定はありません。計画の実績の評価が法律に明記されているものを選ぶ問題で、市町村自殺対策計画が選択肢に入ったのは第32回問題46です。
交付金
国は、都道府県自殺対策計画や市町村自殺対策計画に基づいて事業を実施する都道府県と市町村に対し、予算の範囲内で交付金を交付することができます(第14条)。
基本的施策
第15条から第22条は、国と地方公共団体が講ずる基本的施策を定めています。
①調査研究等の推進と体制の整備(第15条)
②人材の確保等(第16条)
③心の健康の保持に係る教育と啓発の推進等(第17条)
④医療提供体制の整備(第18条)
⑤自殺発生回避のための体制の整備等(第19条)
⑥自殺未遂者等の支援(第20条)
⑦自殺者の親族等の支援(第21条)
⑧民間団体の活動の支援(第22条)
⑥の自殺未遂者等の支援は、自殺未遂者が再び自殺を図ることのないよう、適切かつ継続的な支援を行うための施策を講ずるものです。
自殺未遂者への支援として就労支援施策の実施が義務付けられているとする×の選択肢が、第29回問題28で出題されています。
③の第17条第3項は、学校が児童、生徒等に対して、困難な事態や強い心理的負担を受けた場合の対処の仕方を身に付けるための教育や啓発を行うよう努めることを定めています。2025年の改正で、心の健康の保持のための健康診断や保健指導、精神保健に関する知識の向上が加わりました。
自殺総合対策会議と協議会
自殺総合対策会議
厚生労働省に、特別の機関として自殺総合対策会議が置かれています(第26条)。
①会長は、厚生労働大臣です。
②委員は、厚生労働大臣以外の国務大臣のうちから、厚生労働大臣の申出により内閣総理大臣が指定します。
③自殺総合対策大綱の案の作成、関係行政機関相互の調整、自殺対策に関する重要事項の審議を行います。
2026年4月の施行で第4章(協議会)が加わったため、自殺総合対策会議の条番号は第23条・第24条から第26条・第27条に変わりました。お持ちのテキストが旧番号の場合は、読み替えてください。
協議会
2025年の改正で、こどもの自殺対策のための協議会の規定が設けられ、2026年4月から施行されています。
①地方公共団体は、こどもに係る自殺発生回避のための体制の整備や自殺未遂者等の支援を実施するにあたり、協議会を置くことができます(第23条第1項)。
②協議会は、学校、教育委員会、児童相談所、精神保健福祉センター、医療機関、警察署等の関係機関、民間の団体その他の関係者で構成します。
③協議会は、こどもの自殺の防止等について情報の交換を行い、必要な対処や支援等の措置について協議します(第24条第1項)。
④協議会の構成員には守秘義務があり、違反した者には1年以下の拘禁刑または50万円以下の罰金が科されます(第24条第4項、第25条)。
条文は「置くことができる」と書かれており、設置は任意です。児童福祉法の要保護児童対策地域協議会は、地方公共団体が「置くように努めなければならない」とされており、努力義務です。
よく出題される「〇〇協議会」については、こちらの記事で総まとめしています。
→要保護児童対策地域協議会等「協議会」5つを整理|設置義務と調整機関
所管する省庁
自殺対策基本法の所管は、厚生労働省です。2016年4月に、自殺総合対策会議が内閣府から厚生労働省に移されました。こどもに係る自殺対策は、内閣総理大臣(こども家庭庁)、文部科学大臣、厚生労働大臣が連携して推進します。
過去問を解いてみましょう
第35回問題47
次のうち、法律で市町村に策定が義務づけられている福祉に関連する計画として、最も適切なものを1つ選びなさい。
1 高齢者の居住の安定確保に関する法律に基づく高齢者居住安定確保計画
2 健康増進法に基づく市町村健康増進計画
3 自殺対策基本法に基づく市町村自殺対策計画
4 再犯の防止等の推進に関する法律に基づく地方再犯防止推進計画
5 成年後見制度の利用の促進に関する法律に基づく成年後見制度の利用の促進に関する施策についての基本的な計画
解説
1→×高齢者居住安定確保計画は、市町村が「定めることができる」とされており、任意です。
2→×市町村健康増進計画は、市町村が「定めるよう努めるものとする」とされており、努力義務です。
3→○市町村自殺対策計画は、市町村が「定めるものとする」とされており、義務です(第13条第2項)。2016年の改正で義務化されました。
4→×地方再犯防止推進計画は、地方公共団体が「定めるよう努めなければならない」とされており、努力義務です。
5→×成年後見制度の利用の促進に関する施策についての基本的な計画は、市町村が「定めるよう努めるものとする」とされており、努力義務です。
第32回問題46
次の各計画の策定を規定している法律に、計画の実績について評価を行うと明記されているものを1つ選びなさい。
1 市町村自殺対策計画
2 市町村介護保険事業計画
3 市町村障害者計画
4 市町村子ども・子育て支援事業計画
5 市町村老人福祉計画
解説
1→×自殺対策基本法には、計画の実績について評価を行う規定はありません。
2→○介護保険法は、市町村が施策の実施状況と目標の達成状況を調査・分析し、市町村介護保険事業計画の実績に関する評価を行うことを定めています(第117条第7項)。
3→×障害者基本法には、市町村障害者計画の実績について評価を行う規定はありません。
4→×子ども・子育て支援法には、市町村子ども・子育て支援事業計画の実績について評価を行う規定はありません。
5→×老人福祉法には、市町村老人福祉計画の実績について評価を行う規定はありません。
第29回問題28
自殺対策基本法に関する次の記述のうち、最も適切なものを1つ選びなさい。
1 精神保健的観点から自殺対策を強化することが、優先的課題とされている。
2 自殺対策を、生きることへの包括的な支援として捉えている。
3 国は地方公共団体の自殺対策に関与してはならないとされている。
4 自殺予防に関し、保健所が一元的に担うこととされている。
5 自殺未遂者への支援として、就労支援施策を実施することが義務づけられている。
解説
1→×基本理念は、単に精神保健的観点からのみならず、自殺の実態に即して自殺対策を実施することを定めています(第2条第3項)。
2→○基本理念は、自殺対策を生きることの包括的な支援として実施することを定めています(第2条第1項)。2016年の改正で加えられました。
3→×国は、地方公共団体に対し、必要な助言その他の援助を行います(第3条の2第2項)。
4→×法律は、国、地方公共団体、医療機関、事業主、学校、民間の団体その他の関係者が相互に連携を図りながら協力することを定めています(第8条)。
5→×国と地方公共団体は、自殺未遂者等への適切かつ継続的な支援を行うための施策を講じます(第20条)。就労支援施策の実施を義務付ける規定はありません。
第26回問題65(精神保健福祉士)
次のうち,自殺総合対策大綱に示された取組により養成される,見守り等の役割を担う人材として,正しいものを1つ選びなさい。
1 ゲートキーパー
2 コミュニティソーシャルワーカー
3 ペアレントメンター
4 ピアスタッフ
5 カウンセラー
解説
1→○自殺総合対策大綱は、悩んでいる者に気づき、声をかけ、話を聞いて、必要な支援につなげ、見守る人材として、ゲートキーパーの養成を掲げています。
2→×コミュニティソーシャルワーカーは、地域で制度の狭間にある課題に対応する専門職で、社会福祉協議会等に配置されています。
3→×ペアレントメンターは、発達障害のある子を育てた経験のある親が、同じ立場の親の相談に応じる役割を担います。
4→×ピアスタッフは、精神障害の経験を生かして、精神障害者の支援に携わる者です。
5→×自殺総合対策大綱が見守り等の役割を担う人材として養成を掲げているのは、ゲートキーパーです。

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