対象となる障害者の広がり
覚えてほしい点を箇条書きにまとめます。
〇障害者雇用促進法(障害者の雇用の促進等に関する法律)は、1960年(昭和35年)に身体障害者雇用促進法として制定されました。
〇制定当初の対象は身体障害者だけで、その後の改正で身体障害者(1976年)、知的障害者(1997年)、精神障害者(2013年改正・2018年施行)の順に雇用義務の対象になり、現在は3障害ともに雇用の義務が課されています。
〇1987年(昭和62年)の改正で、法律名が現在の障害者の雇用の促進等に関する法律に改められました。このとき知的障害者は実雇用率に算定できるようになりましたが、雇用義務の対象になったのは1997年の改正です。
〇雇用の義務は国と地方公共団体から始まり、民間企業は努力義務を経て、1976年に義務になりました。
〇1976年の改正で、納付金制度と調整金の制度が設けられました。
「実雇用率への算定」と「雇用義務の対象」
会社が実際に雇用している障害者の割合を実雇用率といい、実雇用率が法定雇用率に達していれば、会社は義務を果たしたことになります。知的障害者と精神障害者は、まず実雇用率に算定できるようになり→その後雇用義務の対象になるという二つの段階を経ています。
①実雇用率への算定
会社が知的障害者を雇用していれば、その知的障害者を実雇用率の計算に入れることができるます。
②雇用義務の対象(法定雇用率の算定基礎への追加)
法定雇用率は、実際に働いている障害者と仕事を探している障害者の数をもとに計算します。知的障害者の数がこの計算の加えられると、仕事を探している知的障害者が計算に含まれることになるので、その分だけ法定雇用率が引き上げられます。実際に、知的障害者が加えられた1998年(平成10年)7月に、民間企業の法定雇用率は1.6%から1.8%に、精神障害者が加えられた2018年(平成30年)4月には2.0%から2.2%に引き上げられました。これが「雇用義務の対象になる」ということです。
知的障害者は1987年の改正で①、1997年の改正で②に、精神障害者は2005年の改正で①、2013年の改正(2018年施行)で②になりました。
【1960年 身体障害者雇用促進法の制定】
身体障害者雇用促進法は、身体障害者の雇用率制度を設けました。国と地方公共団体には身体障害者の採用計画を作成する義務が課され、民間の事業主にとって雇用率の達成は努力義務とされました。
【1976年の改正】
民間の事業主にも身体障害者の雇用が義務付けられ、法定雇用率が定められました。あわせて、法定雇用率を達成していない事業主から納付金を徴収し、法定雇用率を超えて雇用している事業主に調整金を支給する障害者雇用納付金制度が設けられました。
【1987年の改正】
法律名が障害者の雇用の促進等に関する法律に改められ、対象が身体障害者から障害者全般に広がりました。知的障害者については、事業主が雇用していれば、実雇用率に算定できるようになりました。知的障害者は法定雇用率の算定基礎に入っていないため、この時点で雇用義務があるのは身体障害者だけです。
【1997年の改正】
知的障害者が法定雇用率の算定基礎に加えられ、事業主は身体障害者と知的障害者の雇用を義務付けられました(1998年(平成10年)7月施行)。
【2005年の改正】
精神障害者保健福祉手帳を持つ精神障害者について、事業主が雇用していれば、実雇用率に算定できるようになりました(2006年(平成18年)4月施行)。精神障害者は法定雇用率の算定基礎に入っていないため、この時点で雇用義務があるのは身体障害者と知的障害者です。
【2013年の改正】
精神障害者が法定雇用率の算定基礎に加えられ、事業主は身体障害者、知的障害者、精神障害者の雇用を義務付けられました(2018年(平成30年)4月施行)。
ここまでの流れを表にまとめます。
法定雇用率の仕組みについての記事はこちら
→障害者雇用促進法の法定雇用率とは|対象障害者・ダブルカウント・過去問で理解する
障害者権利条約と2013年の改正
2013年(平成25年)の改正では、精神障害者を法定雇用率の算定基礎に加えたことに加えて、障害者に対する差別の禁止と合理的配慮の提供義務が設けられました(2016年(平成28年)4月施行)。この改正は、障害者権利条約(障害者の権利に関する条約)を批准するための国内法の整備のひとつです。
障害者権利条約は、2006年(平成18年)に国連総会で採択されました。日本は2007年(平成19年)に署名し、2011年(平成23年)の障害者基本法の改正、2013年の障害者差別解消法の制定と障害者雇用促進法の改正によって国内の法制度を整え、2014年(平成26年)1月に批准しました。条約は第27条で、雇用について障害を理由とする差別を禁止することと、職場で合理的配慮が提供されることを締約国に求めています。
【差別の禁止】
事業主は、労働者の募集と採用について、障害者に障害者でない者と均等な機会を与えなければなりません。賃金の決定、教育訓練の実施、福利厚生施設の利用その他の待遇について、事業主は、障害者であることを理由として障害者でない者と不当な差別的取扱いをしてはなりません。
【合理的配慮の提供】
事業主は、募集と採用の際には、障害者からの申出により、障害の特性に配慮した措置を講じます。採用後は、障害者である労働者が職務を円滑に遂行できるよう、施設の整備や援助を行う者の配置など、障害の特性に配慮した措置を講じます。どちらの措置も、事業主に過重な負担を及ぼさない範囲で義務付けられています。
差別の禁止と合理的配慮の提供は、企業の規模にかかわらず、すべての事業主に法的義務として課されています。障害者差別解消法では、事業者の合理的配慮の提供は当初は努力義務で、2024年(令和6年)4月に義務になりました。一方、雇用の分野では、障害者雇用促進法が2016年の施行時から合理的配慮の提供を義務として定めています。雇用の分野の差別の解消は、障害者差別解消法第13条により、障害者雇用促進法の定めるところによります。
障害者雇用促進法の合理的配慮についての記事はこちら
→障害者雇用促進法の合理的配慮をわかりやすく解説|義務化と条約についても
障害者差別解消法についての記事はこちら
→障害者差別解消法の不当な差別的取扱いと合理的配慮|障害者の定義・環境の整備・対応指針
過去問を解いてみましょう
第38回 障害者福祉 問題53
障害者に関する施策の展開について,次の記述のうち,最も適切なものを 1 つ選びなさい。
1 身体障害者福祉法が制定された際(1949 年(昭和 24 年))に,当該法による身体障害児を含む身体障害者に対する福祉サービスの提供が始まった。
2 身体障害者雇用促進法が「障害者雇用促進法」に改正,改称された際(1987 年(昭和 62 年))に,知的障害者が法定雇用率の算定基礎に追加された。
3 心身障害者対策基本法が障害者基本法に改正,改称された際(1993 年(平成 5 年))に,精神障害には発達障害が含まれることが明確にされた。
4 精神保健法が「精神保健福祉法」に改正,改称された際(1995 年(平成 7 年))に,精神障害者保健福祉手帳の制度が法定された。
5 障害者自立支援法が「障害者総合支援法」に改正,改称された際(2012 年(平成 24 年))に,身体,知的,精神の 3 障害に共通の自立支援給付の制度が創設された。
(注)1 「障害者雇用促進法」とは,「障害者の雇用の促進等に関する法律」のことである。
2 「精神保健福祉法」とは,「精神保健及び精神障害者福祉に関する法律」のことである。
3 「障害者総合支援法」とは,「障害者の日常生活及び社会生活を総合的に支援するための法律」のことである。
解説
1 × 身体障害者福祉法の対象は18歳以上の身体障害者です。身体障害児への福祉サービスは、1947年(昭和22年)に制定された児童福祉法が定めています。
2 × 1987年の改正で、知的障害者は実雇用率に算定できるようになりました。知的障害者が法定雇用率の算定基礎に加えられ、雇用義務の対象になったのは1997年(平成9年)の改正です。
3 × 障害者基本法で精神障害に発達障害が含まれることが明記されたのは、2011年(平成23年)の改正です。
4 ○ 1995年の改正で精神保健福祉法に改められた際に、精神障害者保健福祉手帳の制度が設けられました。
5 × 3障害に共通の自立支援給付は、2005年(平成17年)に制定された障害者自立支援法で設けられました。障害者総合支援法への改正では、障害者の範囲に難病等が加えられました。
第33回 障害者に対する支援と障害者自立支援制度 問題58
障害者福祉制度の発展過程に関する次の記述のうち、最も適切なものを1つ選びなさい。
1 1949年(昭和24年)の身体障害者福祉法は、障害者福祉の対象を傷痍軍人に限定した。
2 1950年(昭和25年)の精神衛生法は、精神障害者の私宅監置を廃止した。
3 1960年(昭和35年)の身体障害者雇用促進法は、児童福祉施設に入所している18歳以上の肢体不自由者が増加する問題に対応するために制定された。
4 1980年代に日本で広がった自立生活運動は、デンマークにおける知的障害者の親の会を中心とした運動が起源である。
5 2010年(平成22年)に発足した障がい者制度改革推進会議における検討の結果、障害者自立支援法が制定された。
解説
1 × 身体障害者福祉法は、傷痍軍人に限らず、18歳以上の身体障害者を対象としています。
2 ○ 精神衛生法の制定により、それまで精神病者監護法で認められていた私宅監置が廃止されました。
3 × 身体障害者雇用促進法は、身体障害者の雇用を促進するために雇用率制度を設けた法律です。児童福祉施設に入所している18歳以上の者への対応が制定の背景とされるのは、同じ1960年に制定された精神薄弱者福祉法(現在の知的障害者福祉法)です。
4 × 自立生活運動の起源は、1970年代にアメリカのカリフォルニア州で重度の身体障害のある学生が始めた運動です。
5 × 障害者自立支援法の制定は2005年(平成17年)です。障がい者制度改革推進会議の検討を経て、2011年(平成23年)に障害者基本法が改正され、2012年(平成24年)に障害者自立支援法が障害者総合支援法に改められました。
第34回 障害者に対する支援と障害者自立支援制度 問題62
「障害者雇用促進法」及び「障害者優先調達推進法」に関する次の記述のうち,最も適切なものを 1 つ選びなさい。
1 国は,障害者就労施設,在宅就業障害者及び在宅就業支援団体から優先的に物品等を調達するよう努めなければならない。
2 国や地方公共団体は,法定雇用率を上回るよう障害者の雇用を義務づける障害者雇用率制度の対象外である。
3 事業主は,障害者就労施設から物品を調達することで障害者雇用義務を履行したとみなすことができる。
4 事業主は,在宅就業支援団体を通じて在宅就業障害者に仕事を発注することで障害者雇用義務を履行したとみなすことができる。
5 事業主は,身体障害者及び知的障害者を雇用する法的義務を負うが,精神障害者については雇用するよう努めればよい。
(注)1 「障害者雇用促進法」とは,「障害者の雇用の促進等に関する法律」のことである。
2 「障害者優先調達推進法」とは,「国等による障害者就労施設等からの物品等の調達の推進等に関する法律」のことである。
解説
1 ○ 障害者優先調達推進法は、国等に対して、障害者就労施設、在宅就業障害者、在宅就業支援団体からの物品等の調達を推進するよう定めています。
2 × 国や地方公共団体も障害者雇用率制度の対象で、民間の事業主とは別に法定雇用率が定められています。
3 × 物品の調達は売買契約や委託契約であり、雇用契約に該当しないため、障害者雇用義務を履行したことになりません。
4 × 在宅就業障害者への発注も雇用契約に該当しないため、障害者雇用義務を履行したことになりません。発注した事業主には、在宅就業障害者特例調整金または在宅就業障害者特例報奨金が支給されます。
5 × 2013年(平成25年)の改正により、2018年(平成30年)4月から精神障害者も法定雇用率の算定基礎に加えられ、事業主は精神障害者についても雇用義務を負っています。


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