社会保障の歴史シリーズ
語呂合わせで、年表を覚えようとしていませんか。法律は、いつできたかではなく、どのような背景で、どのような内容だったかを覚えていないと解けません。時代背景と一緒に、流れで覚えていきましょう。
社会保障の歴史は全7回です。
→①戦前・社会保険のはじまり
→②戦後・国民皆保険皆年金への道
→社会保障の歴史③福祉元年から見直しの時代へ(この記事)
→④介護保険と平成以降
→⑤医療保険の歴史
→⑥年金の歴史
→⑦労災・雇用・介護保険の歴史
歴史の勉強の仕方についての記事はこちら
→歴史の勉強の仕方
今回のテーマは福祉元年から見直しの時代へ
社会保障の歴史、第3回は福祉元年から見直しの時代へです。1973年の福祉元年から、1982年の老人保健法、1985年の基礎年金の導入までを確認します。この時代の中心は、1973年の福祉元年、1982年の老人保健法、1985年の基礎年金の導入です。
福祉元年(1973年)
高度経済成長の豊かさを背景に、1973年(昭和48年)、社会保障は大きく拡充されました。この年を福祉元年と呼びます。三本柱は次のとおりです。
①老人医療費の無料化
②高額療養費制度の創設
③年金の物価スライド制の導入と給付水準の引き上げ
①の老人医療費の無料化は、70歳以上の高齢者と、65歳以上の寝たきりの高齢者が対象でした。医療保険の自己負担分を、国と地方自治体が公費で肩代わりする仕組みです。
②の高額療養費制度は、自己負担が一定の額を超えたときに、超えた分が払い戻される仕組みです。この制度は現在も続いています。
高額療養費制度についての記事はこちら
→高額療養費制度とは|多数回該当・世帯合算・マル長までまるごと整理
③の物価スライド制は、物価の変動に応じて年金額を改定する仕組みです。あわせて厚生年金の給付水準が引き上げられ、いわゆる5万円年金が実現しました。
国家試験では、次のように出題されました。
○「年金の給付水準を調整するために物価スライド制を導入した。」(第32回問題26)
×「標準報酬の再評価を行い、厚生年金では「9万円年金」を実現した。」(第32回問題26)→1973年に実現したのは5万円年金です。9万円年金は1976年の改正によるものです。
×「被用者保険における家族療養費制度を導入した。」(第32回問題26)→1973年に創設されたのは高額療養費制度です。家族療養費は、これより前から設けられていました。
×「老人医療費支給制度を実施して、60歳以上の医療費を無料にした。」(第32回問題26)→無料化の対象は70歳以上の高齢者と、65歳以上の寝たきりの高齢者です。60歳以上ではありません。
×「老人家庭奉仕員派遣事業が法制化された。」(第32回問題26)→老人家庭奉仕員派遣事業が法制化されたのは、1963年の老人福祉法の制定によるものです。
○「1973年(昭和48年)に、国の制度として老人医療費の無料化が行われた。」(第34回問題49)
ところが同じ1973年の秋、オイルショックが起こりました。高度経済成長は終わり、拡充を支えていた前提が崩れました。福祉元年と同じ年に、見直しの時代が始まりました。
この時期の日本全体の歴史についての記事はこちら
→日本の福祉の歴史④|福祉三法から福祉元年・オイルショックまで
老人保健法(1982年制定)
老人医療費の無料化は、高齢者の受診を急増させました。受診の増加に加えて社会的入院が増えるなどの問題が指摘され、老人医療費は増え続けました。
これらの問題への対応の1つとして、1982年(昭和57年)に老人保健法が制定されました(施行は1983年)。高齢者にも一部負担が求められ、無料化は約10年で終わりました。
老人保健法は、高齢者に一部負担を求めるとともに、老人医療費を国と地方自治体の公費と、各医療保険者が出す拠出金で賄う仕組みを作りました。現役世代の加入する医療保険が、高齢者の医療費を支える形です。現在の後期高齢者医療制度の支援金は、この仕組みを引き継いでいます。あわせて、40歳以上を対象とする健康診査などの保健事業も位置づけられました。
老人医療費無料化と老人保健法についての記事はこちら
→高齢者福祉の歴史②|老人医療費無料化と老人保健法をわかりやすく解説
国家試験では、次のように出題されました。
×「1982年(昭和57年)に制定された老人保健法により、高額療養費制度が創設された。」(第34回問題49)→高額療養費制度が創設されたのは1973年です。老人保健法によるものではありません。
×「老人医療費の無料化が1982年(昭和57年)の老人保健法の制定により行われた。」(第37回問題29)→老人医療費の無料化は1973年です。老人保健法は、無料化をやめて一部負担を導入した法律です。
×「1983年(昭和58年)に老人保健制度が施行され、後期高齢者医療制度が導入された。」(第32回問題49)→1983年に施行されたのは老人保健制度です。後期高齢者医療制度の施行は2008年です。
基礎年金の導入(1985年改正・1986年施行)
同じ時期に、年金の見直しも行われています。当時の年金は、国民年金、厚生年金、共済年金がそれぞれ別に運営されていました。産業構造が変わって農業や自営業の人口が減ったため、国民年金の支え手は減り、被用者年金の加入者は増えていきます。その結果、制度ごとの給付の格差と、国民年金の財政の不安定さが問題になりました。
1985年(昭和60年)の年金改正で、全国民共通の基礎年金が導入されました(1986年施行)。20歳以上60歳未満のすべての人が国民年金(基礎年金)に加入し、被用者はその上に厚生年金が乗る、いわゆる2階建ての構造がここで生まれました。被用者に扶養されている配偶者を第3号被保険者とする仕組みも、この改正で作られています。
さらに1991年(平成3年)から、20歳以上の学生も国民年金に強制加入となりました。②で触れた任意加入の人たちが、ここで制度の中に入りました。
年金の改正の経緯だけを一気に確認したい方はこちら
→社会保障の歴史⑥年金の歴史
すっきり整理 拡充から見直しへ
次回は介護保険と平成以降です
次回は、介護保険法の制定と、平成に入ってからの社会保障の動きを扱います。
→社会保障の歴史④介護保険と平成以降
社会保障の一問一答についての記事はこちら
→社会保障の一問一答(30問)(保険者・保険料・歴史)
ほかの分野の歴史の記事はこちら
→歴史の記事マップ
過去問を解いてみましょう
第32回 現代社会と福祉 問題26
1973年(昭和48年)の「福祉元年」に実施した福祉政策に関する次の記述のうち、正しいものを1つ選びなさい。
1 年金の給付水準を調整するために物価スライド制を導入した。
2 標準報酬の再評価を行い、厚生年金では「9万円年金」を実現した。
3 被用者保険における家族療養費制度を導入した。
4 老人医療費支給制度を実施して、60歳以上の医療費を無料にした。
5 老人家庭奉仕員派遣事業が法制化された。
解説
1→○ 1973年の年金改正で物価スライド制が導入されました。
2→× 1973年に実現したのは5万円年金です。9万円年金は1976年の改正によるものです。
3→× 1973年に創設されたのは高額療養費制度です。家族療養費は、これより前から設けられていました。
4→× 無料化の対象は70歳以上の高齢者と、65歳以上の寝たきりの高齢者です。60歳以上ではありません。
5→× 老人家庭奉仕員派遣事業が法制化されたのは、1963年の老人福祉法の制定によるものです。
第34回 社会保障 問題49
日本の医療保険制度と介護保険制度などの歴史的展開に関する次の記述のうち、最も適切なものを1つ選びなさい。
1 第二次世界大戦後の1954年(昭和29年)に、健康保険制度が創設された。
2 1961年(昭和36年)に達成された国民皆保険により、各種の医療保険制度は国民健康保険制度に統合された。
3 1973年(昭和48年)に、国の制度として老人医療費の無料化が行われた。
4 1982年(昭和57年)に制定された老人保健法により、高額療養費制度が創設された。
5 2000年(平成12年)に、介護保険制度と後期高齢者医療制度が同時に創設された。
解説
1→× 健康保険法の制定は1922年で、第二次世界大戦の前です。
2→× 健康保険、共済組合、国民健康保険などの制度は分かれたままです。国民健康保険に統合されたのではありません。
3→○ 1973年に、国の制度として老人医療費の無料化が行われました。
4→× 高額療養費制度が創設されたのは1973年です。老人保健法によるものではありません。
5→× 2000年に施行されたのは介護保険制度です。後期高齢者医療制度の施行は2008年です。


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